第41話 誓い

 王都で買い物をするのは、以前馬星星マァ・シンシンと行ったきりだ。仕事やら緊急な任務が入って、気が付いたら今日まで来ていた。


「買いたい物はないか」

「毎日幸せなので、特別欲しい物はなかなか思い浮かびません」

「相変わらず無欲だな」


 任深持レン・シェンチーは笑ってくれるが、贈り物をしたいと言ってくれる彼の気持ちを考えると、断るばかりなのも失礼な気がしてくる。


「あの、では」

「なんだ? 何でも言ってくれ。季節外れの花でも、貴方が望むなら私が咲かせてみせよう」


 夏晴亮シァ・チンリァンがやや顔を俯かせた。とんでもないことを言われた気がする。何故こんなにも良くしてもらえるのか、生きるのが精一杯だった夏晴亮には理解が追いつかない。自分のどこに魅力を感じるのだろう。


 頬が赤くなるのを感じながら、夏晴亮が花屋を指差した。


「あそこで花を一輪買ってくださいますか」

「一輪……よし、行こう」


 小さく頷いた任深持が夏晴亮と花屋に向かう。店主が二人を出迎えた。


「これはこれはだい、お客様。どうぞごゆっくりご覧になってください」


 何か言いかけたのを任深持が視線で制する。後ろにいる馬宰相が息を吐いた。


「風兄、もしかして任深持様って、ここで亮亮にお花を買ってた?」

「はい。しかも、一度本人と遭遇しています」

「そうなの!? あの時かぁ、気が付かなかった。それは気まずかったね」


 馬星星が意地悪そうに笑う。


「どれがいい」


 いっそ全種類一輪ずつ買おうかという言葉をぐっと我慢する。あくまで夏晴亮の希望を聞きたい。相手のことを考えず、贈る方の自分だけが満足してはいけないのだ。


「これがいいです」


 夏晴亮は指差した先には、いつかの日に名前も告げず内緒で贈り続けていた、あの花があった。


「そうか。店主、一輪包んでくれ」

「かしこまりました」


 店主が丁寧に花を包んでいる間、任深持が深刻な顔でそれを見つめていた。


「お待たせ致しました」

「ありがとう」


 代金を支払い、店を出る。任深持が夏晴亮に向かい合った。


「これから、超国との間に争いが起こるだろう。すぐ解決するか大規模なものに発展するか分からない」

「はい」


 花を両手で夏晴亮に差し出す。


「私も最前線で戦う。だが、貴方に悲しい想いはさせないつもりだ。この花が枯れないよう、貴方を、国を守る。ずっと私に付いてきてくれると嬉しい」


 夏晴亮が任深持の真摯な瞳を見つめる。


──私のどこがが魅力的なのかなんて関係無い。この方は私を大切にしてくれる。痛い程分かる。もう、ぐちゃぐちゃ考えるのは止めよう。


「有難う御座います。もちろん、付いていきます」


 静かに咲く花を、夏晴亮が受け取って微笑んだ。

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