第26話 一日目 夜 王城

 先生達が魔力の流出を止めに行ってしまい、わたし達は先に王城へ行くことになった。

 どこまで行っても人が道に倒れている。

 その間を縫って進んだ。


「現実とは思えない景色だな。」


 小平太さんの呟きに心の中だけで同意する。

 言葉にするのは怖かった。

 夫婦と思われる男女が子供を抱えて木に寄りかかっているのを見て心臓がぎゅっとする。

 王城の門番も意識が無い、簡単に中へ入れそうだが先生達を待たなくてはいけない。


「……小平太さんはどうしてクランヴェーネさんの弟子になったんですか?」


 そんな状況じゃないと思いつつ、目の前の惨状から少しでも気をそらしたくて質問してみる。

 

「俺の父が前から師匠と知り合いで、ときどき家に来ていたんだが、何度師匠に稽古をつけてもらっても勝てなくて、この人だって思って六年粘って弟子にしてもらった。」


「へぇ、六年も……」


「粘り勝ちですね。」


「いやあ、格好良かったなぁ。俺を誘拐しようとした奴らを全員ボコボコにして警察に突き出した師匠。」


「そこを詳しくお願いします!」


 ついでみたいにすごく気になる事言わないで!


「あ、先生達が来たわ。」


 気にはなるけど、今は気持ちを切り替えなきゃ。


「じゃあ、行こうか。」


 クランヴェーネさんが、まるで散歩に行くかのような気軽さで言った。


「地下通路にはあの塔から入るんです。」


 先輩が案内してくれた塔は宮廷魔術師の職場兼寮だそうだ。

 中では黒いローブの人達が倒れていた。そのうち一人に見覚えがある。


「シャーリーンさん!」


 学都の東門で会ったシャーリーンさんが倒れていた。


「知り合いかい?」


 クランヴェーネさんが、彼女の顔を覗きこんで言った。

 なんと言えばいいんだろう、あの時の事は秘密なのに。


「以前世話になった人だ。」


 困っていると、先生が短く言った。


「今は彼女にできる事は無いね。先を急ごう。」


 一見倉庫みたいな小部屋の床の隠し扉を開けると地下への階段が出てきた。


「これはクローディアの案内が無かったら見つからないね。」


 降りて行くと灯りの点いた丸い部屋があった。そこから八方向に通路がある。


「この通路の先にオーブがあります。」


「え?どの通路ですか?」


「全ての通路の先に一つずつ、大オーブがあります。小オーブの場所はわかりません。祖父にはこの結界は大オーブが要だと言われました。」


「うん、大オーブで結界を作って小オーブで微調整してたんだろう。小さいほうが無くなっても結界は消えないけど大オーブが無くなればバランスが取れなくなって壊れるよ。まあたぶんいつかは中の魔力に耐えられなくて勝手に壊れるけど。」


「「「えっ!?」」」


 わたし、先輩、小平太さんが驚いた。


「ど、どういうこと……?」


「小さな結界の中を高い魔力にする実験が昔あったんだよ。予算の都合で十回だけだけどね。十回とも壊れたらしい、だけど壊れるまでの時間がバラバラでね。今すぐかもしれないし、五十年や百年かかるかも。そんなの待てないだろう?」


「師匠、先に言っといて下さい。」


 疲れた様子で言う小平太さん。


「ごめん、知らない可能性を失念してた。」


 てへへ、と頭をかくクランヴェーネさん。


「ともかく、オーブを一人一つ壊せば大丈夫だろう。半分以上失うからな。」


 クライヴ先生が、わたしと先輩に何か渡してきた。


金槌ハンマー!?」


 お手頃サイズの金槌ってなんで?


「オーブは魔術には強いが、物理的な衝撃には弱い。それで叩け。」


 えええー、なんか締まらない……

 と思ったら先輩が真面目な顔で軽く振って使い勝手を確認してる、やる気だ……


「じゃあ行きましょう、一本道だから迷いませんよ。」


 ぐっと胸の前で拳を握る先輩。


「オーブを壊したらここに集合、いいね。」


「「「はい!」」」


 そして、わたし達はそれぞれ違う通路へと進んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る