第5話 結界について、わたしの村について

 ザクトガードではロドン山の方角から風が吹くと、空気中の魔力が一気に濃くなる。

 魔族は人間より魔力に強いが、それでも体調不良を起こしてしまうほど濃い。

 それを防ぐために魔力は通さず、水や風は通す特殊な結界で町を覆っているのだという。


 これを応用して魔動装置を動かすのに適した魔力の薄い空気で都市を覆うことにしたのだ。

 現在、王都と学都を含む五つの都市が結界に覆われ、その中では多くの魔動装置が使われている。


 結界は、王都なら宮廷魔術師が、他の都市は領主のお抱え魔術師が管理している。

 この魔術師は、貴族出身者で占められている。


 一方、魔動装置を作るのは魔動技師と呼ばれ平民出身の人もいる。

 だからわたしが目指すのはこちらだ。


 あ、そうそう魔力が何なのか実は魔術師にも解っていない。

 だから、濃い、薄い、高い、低い、強い、弱いなど、どんな言い方でも今のところは正解なのだそうだ。


 物質なのか、エネルギーなのか他のなにかなのかも解っていない。

 魔素ではなく魔力なのも最初に研究してた人がそう言っていたから。

 まあ、それ以前も魔力って言い方だったらしいから、変えなかっただけとも言える。


 結界を張るときに使うに使う魔石と魔力石は別のものだ。

 魔石は魔術師が用途に応じて作るもの。魔力石は自然界から採取するもの。

 

 ややこしいから前者をオーブ、後者を産地からロドン石と呼ぼうと言った人がいたらしいが、ロドン石と言う人はあまりいない。


 魔族に対する恐れや嫌悪のせいでザクトガードの地名は使いたくないからではないかと言われている。教科書でも魔力石のままだ。




 わたしは、村ではちょっと変わった子供だったと思う。


 村の近くには領主様の農園があって、ほとんどの大人がそこで働いていた。

 村の学校でもそれを意識しているのだろう、農業体験という行事が毎年ある。

 うちの村と近隣の村の学校の生徒が農園を訪れ、簡単な仕事をさせてもらう。

 いずれここに就職する子供達に練習をさせるのだ。


 わたし以外の子供は、とても楽しそうに参加していた。

 働くことに誇りを持っているように、わたしには見えた。

 わたしは楽しそうなふりをしながら頭の中では、疲れた、帰りたい、休みたいと呟きながら働く。

 名産の茶葉をお土産にもらう頃には喋る元気もなく、他の子がどれだけ頑張ったか自慢する声を聞きながら頷くだけの人形と化している。

 毎年そうなので農園に就職する気は無かった。


 ならば父さんのように薬師になればいい、とは思わなかった。

 薬師の仕事は、農業と似ているところがあるのだ。


 都会の薬師なら薬の材料を買えばいいけど、田舎では自分で育てるか、森に取りに行くかなのだ。

 父さんの手伝いぐらいならともかく、仕事にしたいとは思わなかった。


 他の仕事に就くには村を出て別の学校に入るしかないが、家にはお金は無い。


 そんな時、学校に貼り出されたのが奨学生募集のポスターだった。


 これだっ!って思った。


 学都にある名門校にタダで入れるなんて、こんなチャンス二度と無い。やるだけやってみよう。

 学校の先生は、


「国中から優秀な子が集まるから合格しなくても気に病まないように。」


 なんて言っていたけど、結果は合格。

 なぜか村長さんの奥さんが大喜びして、色々準備を手伝ってくれた。

 父さんが仕事で家を空けるときに村長さんの家でお世話になっていたから、娘のように思ってくれていたのかもしれない。


 ……村を出ることを選んだけど、わたしは村を嫌っているわけではない。

 わたしに農業や薬師が向いてないだけだと思っている。

 それはわたしの問題で村が悪いわけではない。

 故郷のお茶は世界一美味しいし、村の風景は学都には無い美しさがある。


 いつか立派な魔動技師になったら、村の学校に図書室を作って恩返したい。

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