第4話 下宿、魔動装置のある日常

「美味しかった~」


「だね、あの味と量で650レンは安いね~」


 銀の猿亭から、下宿まで5分。

 この街は、学生の衣食住が学校の周りで手に入るようにできている。

 アルギンス王国の東にある学問の街ルリカ、通称『学都』。

 街の真ん中には、かつて東の領主に降嫁した王女のために建てられた城がある。

 今は図書館になっており、誰でも無料で利用できる。

 その周りには11校の国立学校、その一つが魔術学校だ。

 ほとんどの学校が貴族の館を改築していて、観光客も見に来るぐらい綺麗な建物だ。

 どの学校にも寮があるけど、貴族が優先、次が大商人の子供で、ジェシカやわたしは、地元の人の家に下宿している。


 学都では、学生に部屋を貸すと税金が減額されるので税金の高い中心部には下宿をしている人が多い。

 わたしたちの下宿には、他の学校の生徒が一緒に住んでいる。

 全員女の子で大家さんも女性だ。


 下宿の建物は古いけどおしゃれだ。中は今風に改築され煌々と明かりが灯っていた。


「ただいま~」


 リビングでは大家のスザンヌさんが編み物をしている。


「おかえり」


 スザンヌさんは手を止めずにそれだけ言った。編み物中は集中したいんだそうだ。

 わたしたちは台所でお茶を淹れ、カップを持ってそれぞれの部屋に引っ込んだ。

 

部屋の壁に取り付けられたスイッチを押すと、一瞬で明るくなる。

 すごいなぁ、全然煙の臭いがしない……

 ここに住んで半月経つのに、感動する。

 魔動装置、ザクトガードで採れる魔力石を動力として動く機械。

 この部屋の灯りも、台所のコンロも魔動装置だ。それだけじゃない、道路脇の街灯も地下室の洗濯機も全部魔力石で動いてる。


 うちの村とは、大違い。灯りはロウソクだし、暖炉や竈は薪だから家の中はいつも煙の臭いがする。

 昔は、学都でも石炭や薪が使われていたらしい。でもその頃のアルギンスは石炭による大気汚染が問題になっていた。

 そこで代わりのエネルギーとして注目されたのが魔力石だった。


 隣国のザクトガードにはロドン山という火山があり、高い魔力を含んだ噴煙や溶岩を噴き出すのだ。

 その周りは、生物には濃すぎる魔力に満ちていて、血のように赤い魔力石がゴロゴロころがっている。

 この石には、魔力が濃い場所では魔力を吸収して大きくなり、魔力が薄い場所では放出して小さくなり最後には消えてしまうという性質がある。


 これを利用して魔動装置を発明したのが、銀月王と呼ばれた先代のザクトガードの王だ。

 人間の中には、魔族を嫌う人もいるけど魔族が造った便利な技術は別らしい。


 アルギンス王国は、石炭のストーブから魔力暖炉へ変えることで大気汚染を解決しようとしたのだ。


 だが、魔動装置にも欠点がある。一つは使用するさい熱、光、運動エネルギーなどに変換できなかった微量の魔力が出ること。


 室内の魔力が増えると魔力酔いと言われる、目眩、吐き気が起こる。

 これは、定期的な換気で防げる。石炭や薪でも換気は必要だからこの点はさほど問題にはならない。


 もう一つは、周囲の魔力が多いと出力が落ちること。


 世界は空気、水、土あらゆるものに魔力が含まれている。

 生きとし生けるものは、呼吸や食事から魔力を得て生きている。植物ならば、根から土の中の養分と共に魔力を吸収している。

 多すぎても、少なすぎても生きていけないのだ。生き物の種類によって必要な量は違う。


 人間に必要な魔力は生物の中では少ない方なので、町があるような場所の魔力は少ない所が多い。

 アルギンスもそうなのだが、風向きや雨で変動がある。魔術師が調べたところ、季節によっては魔動装置に影響あるほどだと解ったのだ。


 そこでアルギンス王国は、ザクトガードのある地方で使われている方法を試すことにした。

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