第3話 ロドリゴとルカ、そしてジェシカ
はぁー
マルグリット先生の部屋を出ると、緊張から解放されてため息が出た。
今日は、真っ直ぐ下宿に帰ろう。
荷物を入れてあるロッカーまで来ると、仕立ての良い服に身を包んだ男子生徒が、二人居た。
そのうちの一人、プラチナブロンドにアメジスト色の瞳の少年が、こちらに気づいて振り向いた。
「これはこれは、マノンじゃないか。マルグリット先生に呼び出されたと聞いたぞ。この間のテストのことだろう?ギリギリで退学にならなかったみたいだけど。きっと次はアウトだろうな。君のその平凡な顔も見納めかと思うと名残惜しく……
全くならないな。」
彼はロドリゴ。王都の貴族の次男らしい。
隣でおろおろしている青髪に青い瞳の少女と見紛う可愛らしい顔の少年は、ルカ君。代々医者をしている家の三男だそうだ。
この二人は家族ぐるみの付き合いがあるらしく、よく一緒にいる。
わたしは、笑顔をつくると口を開いた。
「やあ、ロドリゴ。元気そうだね。うん、お察しの通りマルグリット先生には気を引き締めるよう言われてね。でも大丈夫。少し学都と村の違いに戸惑っていただけだから、わたしにはメイドも家庭教師もいないから全部一人でやらなければいけないだろ?でも、もうすっかり慣れたよ。次は取り戻せるって先生にも申し上げてきたんだ。この顔もまだまだ見せられるよ。」
そう言ってやると、ロドリゴは形の良い鼻をフンッと鳴らした。
「君が万全でも、勝てるとは思わないほうがいいよ。僕には不調なんてないからな。」
ロドリゴは優雅な所作で踵を返すと悠然と歩いて行った。
ルカ君は、ロドリゴを追いかけようとしたが、もう一度わたしの方を見た。
「あのっ、ロドリゴ君は、ああ見えて悪いやつじゃないよ。今までライバルいなかったから楽しいんだと思う!」
早口でそれだけ言うとルカ君は、ロドリゴを追いかけていった。
うん、わたしも楽しいよ、ルカ君。
だってロドリゴって、セリフも動きも舞台の役者みたいで見ていて面白いんだもん。
毎日ただでお芝居を見てる気分だよ。
「マノン」
背後から女の子の声がして振り向くと、同じクラスで下宿も一緒のジェシカだった。
おそらく二人がいなくなるのを待っていたのだろう。
夕日のような赤毛と春の空みたいな水色の目が少し羨ましい。
私は平凡な茶色の髪と目だから。
「もう帰れる?銀の猿亭に行こう、今日はシチューが割引だよ。」
銀の猿亭は学生はもちろん、地元の人にも人気のレストラン。値段も手頃でどの料理も美味しい。しかもシチューはわたしの大好物。だけど……
「ごめん、成績のことで叱られたばかりだから真っ直ぐ帰るわ。」
「いつもみたいに学食で食べて帰るんでしょ?銀猿亭は、すぐそばだから時間はかからないわよ。今日は勉強を教えてもらったお礼に奢るつもりだったんだけど?マノンのお陰で順位かなり上がったのよ。」
奢り?
ジェシカは、商人の娘で、わたしの生活費より多いお小遣いを親から貰っている。それでもこの学校では最下位ぐらいの資産しかないらしいが。
つまり、わたしに奢っても彼女には大した額ではなく、わたしは一食分儲かる。断る理由無し!
「行く。」
「行こう!早くしないと席が無くなるわ。」
ジェシカは嬉しそうにわたしの背中を押した。
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