第22話 一日目 夜 合流
わたしたち三人は金の猿亭へ向かっていた。
歩きながら自己紹介された。
エルフ女性の名はクランヴェーネ、少年の名は小平太というらしい。
クランヴェーネさんは、やっぱり先生のお姉さんで小平太さんはその弟子だそうだ。
着物のトタ人は小平太さん以外にも見かけるけどほとんどが仕事でやって来た中年男性の商人で、少年は珍しく通行人の視線を感じる。
エルフ女性が一緒だからなおさら目立つ。
「それにしてもラッキーだな。偶然マノンと会えるなんて。」
クランヴェーネさんがうきうきした様子でわたしを見る。
見た目は人間なら四十歳ぐらいだけど、少女みたいにはしゃいでる。
先生のお姉さんだけあってとっても綺麗なお顔をなさっている。
「師匠の遅刻癖が役に立ちましたね。」
小平太さん、言葉に棘がある。クランヴェーネさんの遅刻に困ってるのかな。
小平太さんは十五歳って聞いてたけど実際会ってみると、背が高く筋肉のついたがっしりした体型で顔も凛々しく大人っぽい。
小さくて貧弱なわたしには、コンプレックスを刺激される相手かもしれない。
「マノン、クレープの屋台だよ。食べる?半分こしようか?」
「師匠、今から食事に行くんですよね。クレープはまた今度ですよ。」
……これが彼らのいつもの会話なんだろうか?
「さっきのマノン冷静だったな、いきなり泥棒扱いされたのにちゃんと言い返してた。」
小平太さんが、わたしの頭を撫でた。
「やめてくれませんか?」
自分で思うより不機嫌な声が出て、びっくりした。
二人もきょとんとしている。
落ち着いた声になるよう努めて話す。
「頭を撫でるというのはとても親しい仲でないとしないと思うんです。わたしたちは初対面ですので相応しくないかと。」
てか、子供扱いだよね。
父さんはわたしを子供扱いしない方だし、本当に小さいときしか撫でられていない。
助けられてこんなこと言うのは失礼って思われるかもしれないけど嫌なものは嫌だ。
「分かった、やめるよ。もうしない。ごめんな。」
あっさりと、小平太さんが引き下がるのを意外に思った。
生意気だと怒るわけでもなく、嫌がるのを面白がってさらに撫でたりもしない。
「あっはは、言われたね。お前は年下の子を可愛がりすぎちゃう所がある。気をつけないとバカにしてるって思われるよ。言ってくれて、ありがとうマノン。」
こっちの反応も新鮮だ。村のオバサンの中にはわたしがズバズバ言い過ぎると眉を顰める人もいた。女の子なのにって。
そういやロドリゴも『庶民』とは言うけど、女だということを理由に何か言った事は無いな。
地域差かな。
「あっ、着いたよ。金の猿亭、ビーフシチュー売り切れてないといいんだけど。」
クランヴェーネさんもビーフシチューが好きなのか。
中に入ると美味しそうな匂いが漂っていた。
先生と先輩は奥の方の席に着いて何か話していたが、すぐにこちらに気がついた。
「マノン!良かった。」
先輩が手招きする。
「この子がもう一人の生徒?いいな~、ワタシも女の子に教えたい……」
クランヴェーネさんが羨ましがる。
先生と小平太さんは苦笑い。
「クランヴェーネさんの弟子はトタの方だったんですね。」
で、お互いに紹介しあって、合流するまでにあった事を教えあった。
「その馬無し馬車、魔力石が大量に要りそうだね。」
「ザーツ子爵は領地に金山を持っているんです。金に物を言わせて……ってことかもしれません。」
ビーフシチューがたいへん美味しい。来て良かった。
「姉さん、頼んでいた物は持ってきましたか?」
「もちろん。これを取りに行ったから、マノンと会えたんだよ。」
クランヴェーネさんが箱を三つ取り出した。
先生が二つを受け取ってその内一つを開けて見せる。
中にはペンダントのパーツと思われる金属と緑色の石が入っていた。
「なんです、それ?」
「簡易魔力計の製作キットだ。授業の予習になるかと思ってな。マノン、クローディア作ってみるか?」
「作りたいです!」
「私も!」
「残りは小平太の分。」
渡さなかったもう一つをクランヴェーネさんは小平太さんに渡した。
「俺のですか?」
「うん、小平太は作るの苦手そうだから根付に仕立ててもらったよ。」
小平太さんが箱を開けて根付を取り出す。
ペンダント用より小さな石が付いているが紐が白黒で格好いい。
「良いですね。着物と合う。ありがとうございます。」
そのまま帯に着けようとした小平太さんだったがピタリと動きを止めた。
「どうした?」
「師匠、これ。」
小平太さんがわたし達に見えるよう根付を持ち上げた。
緑だった石が黄色になっていた。と、思うと赤みを帯びてオレンジ、そして完全に赤へ、その後は黒っぽくなってゆく。
カラーン、軽い音が響いて見ると木製のトレイが床を転がっていく。
持ち主のウェイトレスは椅子に掴まってしゃがみこんでいた。
客が帰った隣のテーブルを片づけに来たのだろうけど、体調でも悪くなったのだろうか。
一番近くにいたクランヴェーネさんが席を立って彼女に声をかけた。
「どうしました?」
「目眩が……気持ち悪い……」
「他の人を呼びますね。」
小平太さんが厨房へと向かう。
「姉さん、周りの様子がおかしい。」
彼女だけではなかった。
客も店員も、皆青い顔をして苦しんでいる。
「師匠!こっちも大変です!皆倒れてる。」
小平太さんが厨房から叫んだ。
「マノン、クローディア、念の為これを着けておいて。」
そう言ってクランヴェーネさんが渡してきたのは、小さな白いイヤリングだった。
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