第18話 出発
放課後の勉強が終わったので図書館から出ようと先輩と廊下を歩いていると、
「マノーン!!」
いきなり先輩に抱きつかれた。
顔が先輩の服に押し付けられる。
「あなたのおかげよ、ありがとう!!なんて素敵なのかしら!私の家にいらっしゃるだなんて!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が苦しい。
先輩、力強っ!
「先輩!なんですか!?苦しい!」
先輩の肩の辺りから顔を出すと、こちらを見る二人の男の子と目が合った。
……ロドリゴとルカ君。
二人共目を丸くして驚いている。
「先輩、落ち着いて!公共の場ですよ!」
はた、と気づいてわたしから離れた先輩は後ろの二人を見るとにっこりした。
「ごきげんよう。」
何食わぬ顔で挨拶する先輩。
「ご、ごきげんよう……?」
呆気に取られる二人を置いてすたすたと図書館から出ていく。
「あの二人わたしと同じクラスの……」
「ロドリゴ君とルカ君よね。パーティーで会ったことがあるわ。シャイな子たちだから、まあ、大丈夫でしょう。」
ロドリゴがシャイ……?
ルカ君なら分かるけど。
それに何が大丈夫なんだろう?
「ちょっと不謹慎だったかしら、マノンが帰省できないのに喜んじゃうなんて。」
できないのではなく、しないんですけどね。
今日、村長さんちに電話して帰らない事を伝えなきゃ。
それにしても電話って便利だね。
村には一台しかないけど、学都には五割の家に有るんだって。
学生向けの下宿の条件の一つが電話が有ることってのも普及率を上げている。
「大丈夫ですよ。それより、泊めてもらえる上に馬車まで用意して下さるなんて感謝しかありません。」
「私が先生と一緒に居たいだけだから良いのよ。マノンが来てくれなきゃ、先生は泊まってくれないもの。」
うふふ、と笑顔の先輩。
嬉しさが止まらないらしい。
次の日の朝、ルカ君に話しかけられた。
珍しい事に一人だ。
「おはよう、マノン。」
「おはよう、ロドリゴは一緒じゃないの?」
「ロドリゴはちょっと忘れ物を取りに行ってる。マノンって最近クローディア先輩と仲が良いんだね。」
ルカ君も先輩のファンなのかな、それともロドリゴが気にしているから?
ジェシカが美形だって言ってたけど、近くで見るとやっぱり可愛い顔してる。
サファイアの妖精ってかんじ。
ちょっと顔赤いから余計に可愛く見えるのかな。
「うん、一緒にクライヴ先生に教わってるから。」
「えーと、それだけ?」
「それだけだよ。後輩に親切な人だよね。」
先輩のお宅に伺うなんて言ったらファンに睨まれるかもしれないから秘密だ。
ルカ君は穏やかな人だから大丈夫だろうけど、一人に話すと噂が広まってしまうかも。
「そ、そうなんだ。」
曖昧な笑顔を浮かべるルカ君。
何だろう?
何かが気になるから声をかけたんだろうけど、何が気になったのかは分からないな。
人の気持ちって分からないなぁ。
ルカ君が離れていくと、他の子と話していたジェシカがやってきた。
「ルカ君が一人で話しかけてくるなんて珍しいわね。何話してたの?」
「挨拶と、……世間話?」
辰の月に入り、連休がやってきた。
下宿まで迎えに来てくれると言っていたので待っていると、素敵なワンピースに身を包んだ先輩が下宿に現れた。
朝日より眩しい。
ジェシカ達三人は実家が遠いからわたしより先に出た。
「また、クローディア様に会う機会を逃したわ。」
ジェシカはこう言って悔しがっていた。
スザンヌさんに見送られて出ると立派な馬車が停まっていた。
「先生はもう乗っているわ。」
豪華な馬車に乗ると先生がむすっとして座っていた。
「おはようございます。体調でも悪いんですか?」
「質素な馬車に慣れているせいか落ち着かなくてな。」
「わたしもこんな立派な馬車初めてで緊張します。」
広いし座席がふかふかだ。
クッションの刺繍がゴージャス。
「遠慮せずに寛いで下さい。夕方には王都に着きますよ。」
いつも使っている馬車とは乗り心地が随分違う。
揺れが少ない、快適だ。
「私の姉はもう王都に着いているらしい。今夜金の猿亭で会う事にした。弟子を一人連れて来ているそうだ。」
先生の言葉に少し驚く、お姉さんだけじゃないんだ。
「お弟子さんですか?」
「剣術の弟子で十五歳の少年だそうだ。」
年上の男の子か……
あまり好きじゃないんだよね。
村の男の子にはいい思い出が無い。
「お姉さんってどんな人なんです?」
「好奇心旺盛な人で、いつもあちこち飛びまわっているんだ。年齢は私と親子ほど離れていて、私が生まれた頃には人間と結婚して里を出ていた。」
「人間と!?」
「私もご一緒していいですか?お姉さんに会ってみたいです。」
クローディア先輩が目をキラキラさせている。
人間との結婚について知りたいんだろう。
「ああ、いいぞ。参考になる話が聞けるかもしれない。」
先生と先輩が考えてる参考になる話は、違う物だと思う……
「マノン、金の猿亭はビーフシチューが美味しいのよ。」
「本当ですかっ!?」
王都の金の猿亭は、学都の銀の猿亭の本店。
きっと美味しい料理がたくさんあるだろう。
楽しみだ。
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