第17話 連休は王都旅行

 クローディア先輩と走るようになって四日。

 最近は着替えに帰るのが面倒なので動きやすい服で登校している。

 

「マノン!」


 聞き覚えのある声だと思ったらロドリゴだった。

 だがどうしたのだろう、彼はいつも余裕のある様子で大きな声をあげるタイプではなかったのに。


「君、最近クローディア先輩と図書館の周りを走っているって本当か!?」


 耳が早いな、ロドリゴ。

 わたしはいつものようににっこり笑った。


「よく知ってるね。縁あって一緒に走る事になったんだ。」


「な、なんで君がクローディア様と。いったいどんな縁があったっていうんだ……」


 ロドリゴって実はクローディア先輩のファンだったのか。

 そうでなければ身分が上のロドリゴが先輩を様付けで呼ばないもんね。


「ごめん、もう行かなきゃ。クライヴ先生がお待ちだから。」


「あっ、待て。どうやって知り合ったんだ!」


 ルカ君が彼を宥めるのを尻目に校舎を出る。

 ロドリゴには、先輩がクライヴ先生目当てで近づいてきたなんて言っちゃ駄目だな。


 いつものように図書館に向かう、今日はクローディア先輩も一緒に勉強だ。


 いつもと違うのは男子生徒の視線がこちらへ向いている事。

 今日も先輩の大人びた美貌は絶好調、十五歳って言っても疑われないんじゃないかな。

 先生は、まだ来ていないみたい。


「ごきげんよう、マノン」


「ごきげんよう、クローディア先輩。先生は、まだいらっしゃらないんですね。」


「そうみたい。ねえ、マノン連休はどう過ごすの。私の家に遊びに来ない?」


「ええ?父には実家に帰るって言ってますけど、先輩のお家って遊びに行ってもいいんですか?」


「実はマノンと一緒に行きたいお芝居があるのよね。前に一度見たんだけど面白かったのよ。連休に再演があるの。前日と当日、家に泊まってもらえばいいかなって思ってたんだけど、お父さまと実家で過ごすなら仕方ないわね。」


「他のお友達とは行かないんですか、王都の人とか。」


「どうも私、母や義姉あねにお芝居につきあわされているって思われているみたいで、一緒に行ってくれる友達は居ないのよ。」


 王都のお芝居か、きっとわたしの村で見られる旅芸人のお芝居とは違うんだろうな。


「どんな内容なんです?」


「騎士を目指す若者の青春を描く物で、どの役者さんも美麗なのよ。特にこの人とこの人!親友なんだけどね、友情が熱くて……」


 パンフレットを出して役者の写真を見せる先輩。

 うん、イケメン目当てに観るお芝居だね。

 キラキラしたお兄さんがいっぱい。

 これは、先輩のファンの男性には受け入れ難いかも。

 同じ村に住んでたクロエならこういうの好きそう。

 彼女は村では珍しい文学少女だったから、本の話はクロエとしてたな。


「待たせてすまない。」


 クライヴ先生がやってきた。

 椅子に座ると先生は勉強の前にこんな話をした。


「マノン、私の姉に会ってみないか?結界が周囲の環境に及ぼす影響を研究しているんだが。」


「お姉さん?」


 先生、お姉さん居たんだ。

 美人だろうな、じゃなくて。


「つまり魔力の研究ですか?」


「ああ、連休は王都に居るらしいから、行ってみないか?」


「会ってみたいですけど父に連休は帰るって言っちゃったんですよ。それに……」


「なんだ?」


「路銀がありません。」


 学都での生活費や帰省の費用は奨学金に含まれているので心配ないが、王都に行くならわたしが出さなきゃいけないだろう。

 そんな余裕は無い。


「それなら心配無い、姉は私が教員をしている事を面白がっていてな。費用を全て出すから生徒に会わせろと言っているんだ。勝手な人だが知識はあるんで会ってみてはと思ったが、帰省の邪魔は良くないな。次の機会にしよう。よく考えたら姉がこちらに来るのが筋だ。」


 この話はここで終わったと思っていたんだけど、下宿に帰ったらスザンヌさんに呼び止められた。


「マノン、速達が来てるわよ。」


 父さんからだ。

 速達だなんて何か悪い事でも起きたんだろうか。

 不安になりながら開けてみると中にはこんなことが書かれていた。


『隣村で集団食中毒が発生した。対応の為、しばらく家に帰れない。帰省するなら村長さんの家に泊めてもらいなさい。村長さんにも話してあります。』


 ええ〜!


 近くに医者が居ないから薬師の父さんが呼ばれるのは分かるけどこのタイミングで!


 う〜ん。

 村長さんちは何度も泊まってるし、家政婦さんが何でもやってくれて楽なんだけどやっぱり他人の家なんだよね。

 帰るの止めようかなぁ。

 こんな時、母さんが生きてたらなって思う。

 母さんはわたしが小さい頃、病気で亡くなった。


 次の日にこの話を先生と先輩にしたら、二泊三日の王都旅行が決まってしまった。

 一日目に先生のお姉さんに会い、二日目はお芝居を観る。

 わたしも先生も先輩の家にお世話になる。

 先生は宿を取ろうとしたんだけど、先輩に


「連休は観光客が多いからどこもいっぱいですよ。宿代も高くなってます。」


 って言われて先輩の家に泊まる事になった。

 



 



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