第31話 三日目 お礼を言う
お腹はいっぱいになったものの、さっきまで寝ていたせいで夜中だというのに眠くない。
先輩の部屋で今日観るはずだったお芝居の資料を見せてもらった。
劇場で売っているという役者さんの写真や台本等だ。
元になった小説を借り読ませてもらう。意外と面白かった。
役者さんの写真は数枚セットで中身が見えない状態で売っているので、かぶったら他のファンと交換で欲しい物を手に入れるのが普通らしいが先輩にはそういう知り合いはいない。
なのでお目当ての役者さんが出るまで買うという方法を取っていて目当てではない役者さんの写真もたくさんある。
王都でしか買えない物だというし、それを数枚貰ってジェシカ達のお土産にすることにした。
リジーとメアリーの絵や服の参考になるといいな。
外が明るくなったら剣の素振りをする事になった。
昼夜逆転を直すには日光を浴びるのが良いそうだ。
徐々に寝る時間を遅くして元に戻すと先生に言われた。
で、一緒に素振りしてた小平太さんに剣の握り方や姿勢を直される。
無表情になって
「……あ、はい。」
とか言ってしまい、先輩に後で
「マノン、塩対応が過ぎるわ……」
と注意された。
小平太さんが親切で教えてくれたと分かっているのに苦手意識が……
あっ!まだ万引きの時とオーブの部屋でのお礼も言っていない!
すごく失礼な対応しちゃったよ。
と、とにかく小平太さんに会わなくては。
わたしはどちらかといえば嫌われる人間で捻くれてるから、ああいう躊躇なく親切に振る舞える人はコンプレックスを刺激されるんだよね。
自分に無いものの塊みたいな人だもんな、彼。
ロドリゴと話すみたいに嫌味の応酬の方が気が楽。
彼は何も悪くない、問題はわたしの中にある。
稽古を終えてお茶を飲んでいるはずの小平太さんを探す。
「は〜、近くで見てもきれいな髪だったな~、目も神秘的。」
「次にお茶持ってくのは私だからね。」
「わかってるわよ。」
若いメイドさん達が話しながらこちらに歩いて来た。
誰の事を話してたんだろ?
先生かクランヴェーネさんかな?
メイドさんが出てきたサンルームに入ると、小平太さんが一人でお茶を飲んでいた。
「……小平太さん、一人ですか?」
「一人だよ。師匠と先生はシャーリーンさんと話してる。用があるの?」
「小平太さんに用があります。」
「俺に?」
「一昨日は二度も助けていただいてありがとうございます。」
四十五度のお辞儀をして顔を上げると、小平太さんは目を丸くした。
そしてふっと笑う。
この表情はちょっと格好良く見えるかもしれない。
「どういたしまして。俺を嫌いなわけじゃないんだな?」
やっぱりそう思われてたか。
「いえ、その、ちょっと人見知りを拗らせているので……気にしないでください……」
「そうなのか?嫌われてないならよかった。」
よく見れば村の男の子とは似ていない。
背は彼らよりも高いし、顔立ちも違う。
一緒にするのは失礼だ。
なにより小平太さんはわたしを傷つけるような言動はしていないのだから。
……慣れなきゃな。
いつまでここに居ることになるか分からないけど親しくなれるよう頑張ってみても良いのではないだろうか。
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