第32話 三日目 マノンの事情、クローディアの事情
「あれっ?マノン、居たのか。」
ドアが開いて先生、クランヴェーネさん、シャーリーンさんが入って来た。
シャーリーンさんはわたし達に笑顔を向けるとこう言った。
「明日の朝、馬車が来るから帰る準備をしておいてね。」
「あ、明日ですか?」
小平太さんと親しくなろうと思ったら時間はあまり無かったらしい。
がっかりするより先にほっとする自分に、嫌気が差した。
「他の街や国から医者や兵士が応援に来る事になったから、その前に王都を離れよう。君たちの顔を知ってる人もいるかもしれないだろ。」
「マノン、明日帰るなら今日は一緒に寝ない?」
明日学都へ帰ることを伝えると、先輩がそんな事を言いだした。
先輩の部屋の天蓋付きベッドは二人で寝ても余裕があった。
いつも先輩が寝る前に飲んでいるという花の香りのお茶を一緒に飲んでみる。とてもリラックスする香りだ。
「先輩、小平太さんってもしかして格好いい方なんですか?今日メイドさんがこんな事を言っていたんですけど……」
「トタ帝国は東大陸系の美男美女が多いと言われているけど、小平太さんはその中でも美形な方だと思うわ。」
「そうなんですね……」
美醜に疎いとアメリ達に言われた事があるけど彼女達は正しかったのかも。
「マノンはどうして小平太さんを苦手なの?何か理由があるの?」
確かに変に見えるだろうな。
少し迷ったけど上手い言い訳とか言えないし、正直に話すことにした。
「……村にオリバーって男の子がいたんですけど。同い年ですけど体が大きくて年上の子ともよく遊んでいて」
学校に入る前は彼を年上だと誤解していた。
「彼によく『マノンは野良仕事も家事もロクにできない、勉強が得意でも大人になったらそんなの役に立たない』と言われていたんです。そのせいか体の大きな男の子が苦手で……」
「勉強が大人になったら役に立たないだなんて……」
「田舎と都会では考え方が違うんです。不快に思われたらすみません。」
先輩は信じられない物を見る目でわたしを見ていた。
「わたしの友達にアメリという子がいるんですが、彼女は可愛くて裁縫も得意で大人にも子供にも人気の子で。オリバーが言うには、わたしとアメリが友達なのはアメリの価値を下げると……」
「アメリさんはなんて言っていたの?」
「私の友達なんだからオリバーには関係ない、と言い返していました。オリバーは言動が乱暴だから好きではないとも言ってましたね。でもわたしが村では『できない子』なのは本当だし気になっちゃって……」
「アメリさんがいいって言うなら気にしない方がいいわ。
……ねえ、オリバー君はアメリさんが好きなんじゃないかしら?だからアメリさんと仲の良いマノンが羨ましくてそんな事を言ったのかも。」
「えっ!?」
そういえば、オリバーがわたしを悪く言うのはアメリと一緒の時が多かったような……
アメリと仲良くなりたいのに、彼女はわたしを含めた女子達とばかり遊んでいたから。
でも、先輩は二人を直接は知らないしな。鵜呑みにするのは危険だよね。
「先輩はどうして魔術学校に入ったんですか?お家は商家なのに。」
薬師の子なのに薬術学んでないわたしが言うのもなんだが。
「父や祖父に人生を決められたくなかったから、かな。」
「え?」
「商業を学んだら父に、貴族の教養を身につければ祖父に嫁ぎ先を決められてしまうもの。」
え!?あの優しそうなお父さんがそんな事を?
「父と母は親に決められた結婚をしたけど仲が良いの。でも、そんなの運が良かっただけでしょ。なのに父も祖父も変に自信持っちゃって私の相手も決めるつもりでいるみたいなの。時代遅れよね。」
「ええ?」
「兄は早くに相手を見つけて、父に介入させないよう手を尽くしたって言ってた。でも兄ほど優秀でも相手探しに熱心にもなれない私は別の手を考えないと、別の武器を持たないとって思って。魔術を選んだのは魔動装置はこれから発展する分野だと思ったからよ。」
下手に良家に生まれると苦労も多いのかな……
「学都に行ってからはパーティーに連れ出されることも減って楽しく過ごせるようになったわ。
さあ、もう寝ましょ。明日は早いもの。」
ベッドに横になると先輩が灯りを消した。
「……あ。」
「どうしたの?」
「魔力計のペンダント、作るの忘れてました。先輩と一緒に作ろうと思ってたのに。」
「学都に帰ってから一緒に作りましょ。マノンの下宿に遊びに行ってもいいかしら?」
それは、ジェシカ達も喜ぶやつですよ!
友達を呼ぶときは大家さんに話しておけば大丈夫だってメアリーとリジーが言っていたから帰ったらすぐに言おう。
「ぜひ来てください!下宿の皆に話しておきますね。」
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