第30話 二日目 真夜中 感謝
先輩の家に着いたわたし達はお腹がぺこぺこで、とても疲れていた。
魔動装置が使えなくなった為、パンやチーズ、サラダなどの常温の食べ物で食事を取った。濡らしたタオルで体を拭いてベッドにもぐりこみ、泥のように眠った。
目が覚めたら部屋は真っ暗だった。夜になるまで寝てしまったのか。
しばらく闇に目を凝らしていると、カーテンの隙間から月明かりが漏れているのに気づいた。
ベッドから出てカーテンを開けると少し欠けた月が部屋の様子が分かるようにしてくれた。
お腹が空いているのに気がつく、喉も渇いている。
まだ誰か起きている時間なら良いんだけど。
先ずは着替えないとね。
先輩から借りたパジャマを脱いで鞄から出した服に着替える。
昨日着てた服はかなり汚れていたのでメイドさんが洗っておきますって持っていったんだよね。服多めに持ってきて良かった。
パジャマは畳んでベッドに置いておこう。
……これ、先輩が十歳の時に着ていたって言ってたな。
ってことは十歳の先輩と今のわたしって同じ身長……
わ、わたしはこれから伸びるんだもんね、たぶん。
父さんが『母さんは子供の頃小さかったけど大人になる頃には、ほぼ平均身長になった。マノンもきっとそうだよ』って言ってたし。
部屋をそっと出て、一階へと向かう。
廊下も月光が照らしていて歩くには困らなかった。
一階に降りてすぐ、廊下の向こうから燭台を持ったメイドさんが来るのが見えた。
メイドさんもわたしに気づいて話しかけてきた。
「マノンさん?目が覚めたんですね。食事はいかがです?」
やった!渡りに船!
「はい、お腹が空いてたんです。」
「ふふっ、皆さんそう仰られて食堂に集まってますよ。」
皆さん?
メイドさんの後に続いて食堂へと入る。
蝋燭の灯りが眩しくて一瞬目を瞑る。
中には先生と先輩、クランヴェーネさんと小平太さん、シャーリーンさん、先輩のご両親、そして二十代前半くらいの男女がいた。
男性の方は先輩のお父さんに似てる、先輩のお兄さんかな?じゃ女性の方は……
「紹介するわ、私の兄夫婦よ。」
先輩がそう言うと、女性がわたしに近づいて来た。
「マノンさん、はじめまして。そしてありがとう。」
男性の方も一歩遅れてやって来た。
「私達の命、そしてこれから産まれる子供の命を守ってくれて。」
子供……
女性のお腹は大きく膨らんでいた。
「夏には産まれるわ。女の子だったら『マノン』にしようかしら?」
「それはちょっと恥ずかしいです……
それにわたしは先生達を手伝っただけで……」
「他の方には先ほどお礼を言ったのよ。後はマノンちゃんだけ、本当にありがとう。」
「さあ、食事にしよう!朝と違って暖かいぞ。」
席に着くと湯気のたつスープが運ばれてきた。
「本当だ!暖かい!」
先輩がふふっと笑う。
「マノンって食べ物を前にすると本当にいい顔するわよね。」
「だってこの状況で暖かい食べ物なんてご馳走ですよ。」
どうやって作ったのだろう?魔動装置は動かないんだよね。
「古い薪の竈が残ってたから昼の内に手入れしておいたんだ。妻は魔力暖炉が苦手だから、暖炉用の薪も用意していたしね。
パンも肉も焼きたてだよ。」
先輩のお兄さんが自慢げに言った。
「街では炊き出しが行われたんですって、魔動装置しかない家もあるものね。今の所は大した被害は報告されてないそうよ。対処が早かったお陰ね。」
シャーリーンさんが疲れた様子で言った。
この人はずっと起きていたのかもしれない。
高魔力症になったばかりなのに大丈夫だろうか?
護衛だから寝てる訳にもいかないんだろうけど。
先輩の家族には事情を話してあるんだな。
シャーリーンさんが何も言わないって事は、この人達が誰かに漏らす心配は無いのだろう。
わたしの父さんは?
言ったら心配しそう、黙っておくほうがいい気がする。
後で先生達に相談しよう。
今までで一番美味しい食事だった。
こんなふうに誰かに感謝されるなんて初めてで、ちょっと泣きそうになる。
二人の赤ちゃんが無事に生まれますように。
そう願いながらわたしはスープを口に運んだ。
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