第57話 遊花の正体とエルフ姉弟の隠し事

 ザクトガード兵によって全てが片付けられ、地面に寝転がる石喰み以外は何も無くなった。

 先生達によると、失った魔力を地面から吸収しているんだとか。

 遊花さんの魔力も残っている今、いつもより効率良く摂取できるそうだ。


「いや~、魔族じゃなかったら死んでたわ〜。」


「普通の魔族でも死んでましたよ。」 


 明るく言ってカラカラ笑う遊花さんに、無表情のツッコミを入れる八摘さん。

 ツッコミには反応しなかったが、遊花さんはすぐに表情を引き締めた。


「さて、改めてお詫びとお礼を。

危険な目に合わせてすみませんでした。

あの魔動装置は完全に予想外でした。

貴方がたに助けられなければ、私達の命は無かったかもしれません。

ザクトガード国王として、命の恩人を我が城に招待します。

受けてくれますか?」


 ザクトガード国王……

 魔族の国の王……

 魔王!?


「遊花さんて、魔王様だったんですか!?」


「そう言われる事もあるね。

人間の中には魔王を悪の化身みたいに思ってる人もいるみたいだから、あまり好きな言い方じゃないけど。」


 驚いてため息をつくばかりのわたしの肩に、クランヴェーネさんが手を置いた。

 見ると、彼女はニッコリと笑っている。


「せっかくだからお邪魔しようよ。」


「魔王の城か、興味があるな。」


 先生も乗り気だ。

 クランヴェーネさんがさらに言う。


「それに、こんな汚れた格好で街を歩くのはちょっとね。

お風呂貸してもらおうよ。

あと何か食べさせてもらおう。」


 ……確かに服はドロドロに汚れてるし、お腹も空いた。

 ……お礼してくれるっていうなら甘えてもいいよね。


「分かりました。

招待をお受けしたいと思います。」


「決まりだね。

行こう、美味しいもの用意させてもらうからね。

……ところで、マノンちゃん。

イヤリングが片方無いようだけど、落としたのかな?

一緒に探そうか?」


 は?

 え??

 耳に手をやると、右にはイヤリングが着いていたが、左には無かった。

 今居るのはザクトガード、しかも魔王の魔力でいつもより高魔力。

 そんな状況で身を守る魔道具が無くなっている?

 え、え?

 ヤバくない!?

 二ヶ月前の、あの悪夢が頭に浮かぶ。

 倒れた人々、消えた灯り、音の消えた街……

 あの時、ほとんどの人は助かった。

 でも、少しだけど死者も出た。

 元々体が弱っていた怪我人や病人、高齢の人などが亡くなったと聞いた。

 その記事が載った新聞を下宿で見た時、怖くてすぐに読むのを止めた。


「せ、先生。わたし死にたくないです……!

今からここを脱出……無理だ!

じゃあせめて遺族への手紙を書かせて下さい!

父にお別れを言いたいんです!!

ごめん、父さん……先立つ不幸をお許し下さい……!」


 涙が溢れて止まらなくなった。

 体がガタガタ震えだす。


「マノン、落ち着け!大丈夫だ!」


 先生が、真剣な顔で言っているがわたしには響かなかった。


「ペンダントを取り出してみろ!

黄色止まりだ。」


 それでも、言われた通りにペンダントを見る。

 黄色い、でも涙も震えも止まらない。

 怖がっている自分を自分で不思議に思う。

 王都での事は知らない内にトラウマになっていたのか?


「ほら、ワタシ達もイヤリング外すよ。

ね、大丈夫でしょ?」


「先生とクランヴェーネさんは、エルフじゃないですか!!

わたしは、人間です!!」


「マ、マノンちゃんはどうしたの?」


 きっかけを作ってしまった遊花さんが、慌てている。


「アルギンス王都の事故に巻きこまれたんだ。そのせいだ。」


 それだけで遊花さん達は、事情を察したらしい。


「マノンちゃん、ここは人間の住む地と変わらないよ。

大丈夫!高魔力症にはならないから!

それでも心配なら、街に行こう!

結界あるよ。」


 頭では理解できるのに、体が言う事を聞かない。

 怯える自分とそうじゃない自分が居るみたいだ。


「父さんに会いたい……

家に帰りたい!」


「大丈夫!

大丈夫だから、飛行機に乗ろう!

帰してあげるから!」


「マノン、よく聞け。

お前は、普通の人間より高魔力に強い。

普通よりもずっと高い魔力を保有している。

姉さん、もうマノンに教えてあげてはどうです?

いい加減、マノンも我々の接し方が普通ではない事に気がついていますよ。

気味悪がられて、離れて行ってもいいのですか?」


「えっ、何?」


 遊花さんが、きょとんとしている。

 八摘さんは何も言わないが、遊花さんと同じで何も知らないみたい。

 わたしも、何のことか分からず先生とクランヴェーネさんを見る。


「姉さんが言わないなら私が言います。

隠し事は苦手なんです。

私には、これ以上は無理ですよ。」


「分かったよ。

ワタシから言う。」


 クランヴェーネさんが、わたしと目の高さを合わせて話し始めた。


「マノン、ワタシはマノンとずっと前に会っている。

だってマノンのお母さんのメイは、ワタシの孫なんだから。

ワタシが人間と結婚した事は、知ってるよね。

ワタシは息子を一人産み、その子は大人になって人間の女性と結婚して娘が生まれた。

その娘が、マノンのお母さんのメイだよ。

人間である母親に似て、エルフらしい所は何もない子だった。

メイがマノンを産んだ時、ワタシはマノンの顔を見に家に行ったんだよ。」


 は?

 ……え?

 ……ええ!?


「その時、メイに言われたんだ。

『自分はクォーターエルフだが、人間と何も変わらない。

魔力量も容姿も人間そのものだ。

なのに、周囲から奇異な目で見られてきた。

マノンは、そんな目に合わせたくない。

この子が十八歳になるまで、エルフの血を引いている事は秘密にしたい』とね。」


 ……は、えええ?

 じゃあつまり……


「父さんは、わたしがエルフの血を引いているって、知ってるの?」


「トムは、子供の頃からメイがクォーターエルフだって知ってた。

幼なじみだったからね。

知っててメイを選んだんだよ。

だから、十八歳まで黙ってるつもりだったんだ。」 


 父さんの名前をクランヴェーネさんが知ってる。

 その事がわたしに本当かもしれないと思わせる。

 先生も隣に来て、話し始めた。


「マノンに会った後、昔一度だけ会ったメイに似てる気がした。

姉にメイの写真を見せてもらったら、あまりにそっくりで驚いたよ。

もしやと思い、すぐにお前の父親に連絡をした。

後六年は会えない筈のお前に偶然出会ってしまったんだ。

神や精霊の加護を信じない私でも、偶然を司る風の精霊のいたずらだと思ったよ。

……お前の本当の体内総魔力量は九十二。

ハーフエルフの祖父からの隔世遺伝だろう。

だからこの程度の魔力量では、高魔力症にはなるとは思えない。」


 驚きすぎて、高魔力症とかもうどうでもよかった。





 

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農業向いてないから魔術学校入ったんだけど大変な事に巻きこまれてる むろむ @muromu-k

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