第55話 間違いを選ぶ
突然の閃光と轟音。
それが雷だとは、すぐには理解できなかった。
さっきまで圧勝だった二人が倒れて動かない。
何が起こったのか分からず、誰も言葉を発しなかった。
視界の端で何かが動いた。
「な、魔族にも効くって言っただろ。」
「いや、肝が冷えましたぜ。」
「しかし、コイツらだらしねえな。瞬殺かよ。」
木の陰から三人の男が出てきた。
遊花さんがさっき何か言いかけたのは、こいつらに向けてだったのか!!
「しっかし、嗅ぎつけるのが速いな。
それに、こんな若い女だとは……
こっちなんか、まだ十代じゃねえか?」
男は遊花さんの頭を爪先で小突いた。
「魔族は人間の十倍生きるんだ。
若く見えても百歳は超えてるぜ、きっと。」
「ババアかよ!」
ゲラゲラと笑う男達。
「油断ならねえ相手さ。
念の為、もう一発落としとくか。」
男の一人が、短い杖のような物を振り上げた。
先端の赤黒い石が不気味に光る。
クランヴェーネさんが飛び出した。一歩遅れて先生が追う。
クランヴェーネさんは剣で杖を跳ね飛ばし、切っ先を喉元に突きつける。
その間に先生が剣に付与された魔術で残り二人を眠らせる。
「さあ、教えて貰おうか?
さっきの雷はお前の仕業か?
あの魔動装置はどこで手に入れた?」
クランヴェーネさんが、訊くと男は冷や汗を流しながら答えた。
「ああ、あの杖はアルギンスの一番北の町に住んでる爺さんから買ったんだ。
魔族も行動不能にできるってな。
変な奴でな、狂魔導師を自称しているんだ。」
ジリジリと後ろに下がっていく男。
逃げたいのが丸わかりだ。
「動くな。
ザクトガードの兵士が来るまで大人しくしていろ。」
先生も男に刃を向ける。
「ま、まァ二人とも落ち着いて。
なんでエルフがザクトガードにいるんです?」
「そんな事はどうでもいいだろう。」
「いやあ、気になるじゃないですか。」
ジリジリ、ジリジリと後ろに下がる男。
クランヴェーネさんと先生もジリジリと動く。
ビュルッ!!
「な!?」
先生の脚に、金属の紐が絡みついていた。
「クライヴ!?」
クランヴェーネさんが先生に気を取られた一瞬を男は逃さなかった。
足元に落ちていた小石を彼女に向かって蹴飛ばした。
ビュルッ!!
とっさに払おうとしたクランヴェーネさんの腕に、小石から飛び出した紐が絡みつく。
ガクリ、と膝をつく彼女を指差して笑いながら、男は言った。
「まんまと引っかかったな!!
そいつは、お前らの魔力がなくなるまで離れねーぞ!!」
「……これで、石喰み達を捕まえていたのか?」
「ああ、ある程度魔力が強い奴が近くに来ると発動する罠だ!
人間にはただの小石でしかねえが、お前らには反応すんのさ!
捕まえた奴の魔力を動力にして動き続けるんだ、合理的だろ!」
「石喰み達を捕まえてどうするつもりだ。
どこへ連れて行く?」
「大陸の貴族や金持ちに売るんだよ!
こいつらは、匂いも無きゃ、糞もしねえ!
結界に閉じ込めて、石さえ食わしときゃいい!人気のペットになる!
既に買いたいって奴が何人もいるんだ!
精霊なんて気味悪いものを飼いたいなんて俺には理解不能だがな!!」
男がクランヴェーネさんと話してる隙に、先生がチラリとわたしを見た。
……分かってしまった。
逃げろって事だ。
二人共魔力を吸われて、立っていられなくなってる。
男がわたしに気づく前に、この場を離れろ。
そう言いたいんだ。
雷の魔動装置は、少し離れた場所に落ちてる。
男はあれを拾うだろう。
もう一発落とすと言っていた。可能なのだ。
落とされたら先生達はどうなる?
わたしが先に拾えば……
駄目だ、男の視界に入る、気づかれる。
普通に考えれば、わたしは水晶丸とザクロを連れて逃げ、こちらに向かっているザクトガードの兵士に保護を求めるべきだ。
だが、その間に先生達はどうなるのだろう。
石喰み達は?
……先生は不思議だ。
立場を考えれば学校の授業に沿った勉強を教えていればいいはずなのに、それ以上を教えてくれようとする。
わたしの好奇心を否定しない、クランヴェーネさんもだ。
いつの間にか兄や伯母のように思っている。
その二人を置いて逃げる事にひどく抵抗を感じる。
「水晶丸、ザクロ。
わたし、あの結界壊せると思う。
壊したら石喰み達には、一斉に逃げて欲しいんだけど、できる?」
「できると思うわ。
まだそのくらいの魔力は残ってるはずよ。」
「ぼくら、匂いでもお話できるから言っておくね!」
水晶丸とザクロが風上に移動する。
わたしはクランヴェーネさんと話す男を睨む。
……あいつら、大嫌い。
自分の物では無いものを奪おうとしてる。
1レンだって儲けさせてやるものか。
先生、すみません。
正解を教えてくれているのに、わざと間違えます。
わたしは、男の後ろの方へと木に隠れながら移動した。
まばらにしか生えてないからかなりリスクがある。
男から一番遠いオーブまでたどり着く、魔力計に偽装してあるそれを引っこ抜こうと掴んだ。
壊す必要はない、おそらく遠くへ投げ捨てるだけでもバランスは狂う。
「ふんっ!!」
あ、結構しっかり刺さってる。
こういう時は棒を前に押して後に引いて、もう一回!!
ズボッ!
やった!抜けた!
後は遠くへ……
尻もちをついた体制から立ち上がると、すごい顔でこっちを見る男が目に入った。
……マズい
「わ、わわわわ……!」
男から目を離さぬまま後ずさるが、すぐに距離を詰められた。
「……ガキ、何してやがる!!」
手に持った棒を、めちゃくちゃに振るが、男はそれを拳で払った。
オーブが砕けて飛び散る。
……やっぱりわたしはバカだ、先生のくれたチャンスを無駄にして。
泣きそうになった。
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