第14話 庭園の美少女

 病み上がりなんだから今日から走るのはやめておきなさい、という校長先生の言葉に従って次の日の放課後から走ってみた。

 もちろんクライヴ先生に勉強を教わった後だ。


 結論から言って、一周すら無理でした。


 ジョギングコースとしても人気の道らしいんだけど長い長すぎる。

 農園まで歩くのは結構平気だったから、走るのもなんとかなると思ってたのに!

 ゼーハーいいながら歩くほうが速いのでは?というスピードで進んでいたら白髪のおばさまに


「お嬢さん、ジョギングは初めて?無理しちゃダメよ。少しずつ慣れればいいの。」


 と水と小さく砕いた岩塩をいただいた。


 三日目にはロドリゴとルカ君の二人にばったり会った。

 買い物をしていたらしい。


「馬車を使わず帰る練習かい?節約も大変だね。」


 なんて嫌味をロドリゴが言うから


「知らないの?足を動かすと頭の血流が良くなって勉強が捗るんだよ。次のテストもバッチリだよ。」


 って返した。

 ロドリゴってわたしが言い返すのを前提に嫌味言ってると思う。

 悔しがる様子が無いもん。

 友達いないのか?あ、ルカ君がいた。


 五日目は学校が休みだから朝から走ってみた。

 この日、休憩をはさみながらもやっと半周して図書館の裏にある庭園の入口まで来れた。

 こっちに来たのは初めてだ。せっかくだから庭園を見てみよう。入園無料だしね。


 庭園は花がいっぱいで景色も香りも素晴らしかった。

 薔薇の種類が多い。一重のオールドローズから香りの良い大輪の品種、紫や青もある。

 この街の名前の由来となったルリカ王女が好んだというライラックもたくさん植えられているんだけど、まだ蕾。咲くのは辰の月に入ってからかな?


 背の低い花をよく見ようとかがんでいたら日が陰った。


「あなたマノンでしょ?一年の奨学生の。」


 すぐそばから声がして驚く。

 左隣に立ってこちらを見下ろしている少女がいた。

 立ち上がって見るとわたしより頭一つ分背が高い。

 そのうえとても綺麗な女の子だった。

 ゆったりと波うちながら落ちるカフェオレみたいな色の髪。

 優しげなブルーグレーの瞳。

 花びらのような唇。

 そばかす一つ無い白い肌。

 彼女の方から風が吹くとふんわり漂うジャスミンの香り。

 わたしを知っているということは上級生だろうか。三年生ぐらいかな?


「はい、マノンですけど……」


「いきなりごめんなさいね。私は二年のクローディア。偶然見かけたから声をかけさせてもらったの。マノンってあのエルフ先生に剣術を習っているって本当かしら?」


 二年!大人っぽい人だなぁ。エルフ先生ってクライヴ先生の事だよね。


「ええ、クライヴ先生に剣術を教わる事になりましたけど。どうしてご存知なんですか?」 


 実際はまだ素振りもさせてもらえませんけどね。


「クライヴ先生とおっしゃるのね。五日前にあなたとクライヴ先生が廊下で話しているのを見かけたの。」


 ああ、あの時廊下にいた人か。

 今思い返すとあれは恥ずかしかったな。

 わたしの性格から考えると思い立った時に言っとかないと一生言わないから、あれで良かったんだけど。

 ピアノもそれで習いそこねた。村長さんの奥さんが教えてくれるって言ったのにね。


「ねえ、マノン。クライヴ先生は他の生徒に教える気は無いのかしら?」


「え、ええ?

そういう話はクライヴ先生か校長先生に相談なさったほうがいいと思いますけど。

クローディア先輩はもう剣術の授業は受けてらっしゃるのですよね。」


「ええ。私剣術の授業を楽しみにしていたのよ。平民でも女の子でも剣術ができるって聞いたから。でも実際は全然楽しくなかったわ。」


 先輩はワクワクしながら授業が行われる修練場ヘ行ったらしい。

 指南役の元騎士団長は女子を見学させて、男子に剣の持ち方を教え素振りをさせた。

 授業時間が後半分になった頃、元騎士団長は素振りを止めさせた。

 次は女子の番と思ったら彼は信じられない事を言った。


「後は自習、女子は引き続き見学していること。」


 そのまま修練場を出て行って授業時間ギリギリまで帰ってこなかったそうだ。

 そのうちに普段から仲の悪い男子が喧嘩を始めてしまった。

 いつもは嫌味を言い合うだけなのに木剣を持っていたことで物理攻撃に発展してしまったらしい。

 他の生徒が止めるもなかなか収まらず……

 騒ぎを聞きつけた他の先生がやってきて叱るまで続いたそうだ。

 元騎士団長が帰ってきた時には、怪我をした生徒は医務室へ連れて行かれ残った生徒からは何があったのかを聞いた後だった。

 元騎士団長からは煙草と酒の臭いがしたという。

 

「それ、校長先生はご存知なんですか?」


「ご存知のはずよ。指南役を変えるよう学都教育委員会に訴えたそうだから。でも校長先生は商家のご出身だから貴族の元騎士団長から、侮られているみたい。」


「そんな……」


「がっかりして歩いてたら、あなたとクライヴ先生の会話が聞こえたのよ。それで私考えたの。商家出身で女子の私が剣術で良い成績を修めたら、面白いと思わない?」




 

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