第50話 獣人の村
「この先に何の用なのさ!!
言ってみろ!!」
木の上に女の子が立っていた。
わたしより幼く見える。
「なんだリンじゃないか。
すぐそこの村まで行きたいだけだよ。」
「その声はクランヴェーネ?
でも、そいつらは?」
「こっちは弟、この子は弟の生徒。
で、この石喰みを生まれたとこに帰すための旅さ。」
ザザザッ
女の子が木から下りてきた。
……頭に、獣の耳が!虎かな?
「人数多いから悪い奴かと思った。」
女の子がわたしに目を留める。
「こりゃまた弱そうなのだわ。
クランヴェーネから何を習ってるだわさ。」
「ワタシじゃなくて弟の生徒だよ、弟は魔術学校の先生をしてるんだ。」
「弟?」
わたしとクランヴェーネさんが、先生を手で示す。
女の子は口をぱかっと開けて固まった。
「……と、ときめいただわさ……!」
女の子はちょっと顔を赤らめている。
「急ぐから通るよ。」
「案内する!!
任せて!!」
「場所なら分かるよ。」
「遠慮するなって!!ここはアタシの庭だぞ!」
「……リンは別の村の子だろ。」
クランヴェーネさんの言葉など耳に入ってないかのように、意気揚々と歩きだす虎耳の女の子。
「アタシ、リン!!よろしくな!!」
「よろしく。」
「よろ…しく…」
先生には笑顔だけど、わたしには『よろ』の所でギンッて睨んできた。
分かりやすいなあ。
普通にしてれば可愛いのにな。
その揺れるシマシマ尻尾とか。
友達にはなれなさそう……
「着いただわさー。」
森の中にぽっかり広い空間があった。
中央には木製の家があるが、他はテントだ。
見回してみても人がいない。
あ、テントの入り口から覗く子供が……
と思ったら引っ込んだ。
皆テントに隠れているの?
「まずは、村長に挨拶するといいだわさ。」
中央の木製の建物に向かっていく。
「村長〜、いるだわさ〜?」
「リン。何故、お前が来たのじゃ?」
中にいた狼耳の老人が言った。
その老人とあと二人男性が居るだけで他には居ない。
広い家なのに。
「今日の客はクランヴェーネと二人の連れだと聞いていたのだが……」
「案内してあげたんだ。」
エヘンと胸を張るリンちゃん。
「日が暮れる前に帰れ、送ってやるから。
お前の村の連中が心配するだろう。」
「ちぇ〜」
リンちゃんは村長の隣にいた男性の一人に連れられて出ていった。
「すまんのう。
あの子は、他の村の村長の孫なんじゃが、元気すぎて一つの村では収まらんのじゃ。」
「村に入れてくれて感謝する。
これは少しばかりだが……」
クランヴェーネさんが荷物から取り出したのは木綿の反物が六つ。
綺麗な色に染められているが模様は無い、無地だ。
それに色とりどりの糸。
「トタの布か!!」
村長さん大喜び、布がそんなに嬉しいの?
「いつまでこの村にいる?」
「長くても明日まで、ザクトガードから迎えが来る。
この子を帰してあげなくちゃ。」
わたしに巻き付いている水晶丸を指差して言う。
「精霊を土地から離したか、愚かなことだ。」
精霊を敬っている人達なんだっけ?
そりゃあ、密猟者は嫌いだよね。
挨拶が終わって外に出ると、さっきまで家の中にいた人達が出てきていた。
「いらっしゃい、クランヴェーネ!!
旅の話を聞かせてよ!!」
「その人が弟かい!?
カッコイイね〜!!」
「石喰み様、可愛い!!」
「そこの女の子!!
今夜は宴会だよ!!
いっぱい食べな!!」
一気に話しかけられて混乱する。
「村長が滞在を許すまで出てきちゃいけない決まりなんだよ。
皆、話しかけたくてウズウズしてたんだ。」
皆、狼の耳と尻尾が生えてる、服装はトタに近い。
村人総出で宴会の準備が始まる。
「思っていたのと少し違います。皆さん人間にかなり近い姿なんですね。」
村人が忙しくなって話しかけてこなくなった頃、先生に話しかけた。
クランヴェーネさんは肉を焼くのを手伝っているし、水晶丸はそれを見ている。
「どんな姿を想像していた?」
「ええと、動物が服を着て二足歩行してるみたいな……」
大陸の獣人はそんな姿だと、本に書いてあった。
ピューマ型だと格好良くていいなあ、と思ってた。
「ミュオ島の獣人は世界で最も人に近い姿をしている。
……だから、隠されているんだ。
彼らは悪い人間にとって都合が良すぎる。」
「悪い人間?」
「奴隷商人だ。」
ギョッとする言葉が先生の口から出てきた。
「奴隷ってあの……?」
「この島に人間が渡って来てからしばらくたった頃、人間が獣人を捕まえて売る事件が幾つも起きた。
この島の獣人は大陸の獣人より力が弱い。数人がかりなら人間でも抑えられる。
それに、人間から見て美しいと思い易い姿だ。」
「暴れても抑え易く、その……鑑賞に耐えうる容姿って事ですよね、その……女性とか……」
はっきり言うのは、憚られた。
「そういう事だ。」
図書館に奴隷本人の手記とかあったんだよね。
手に取ったけど、怖くて最初しか読めなかったんだ。
今、目の前で楽しそうにしてる人達がそんな目に合うと想像するだけで吐き気がする。
「……どうやって彼らの存在をお伽話にしたんです?
誰か権力者でも動いたんですか?」
「ザクトガードの前国王だ。
魔の森を危険区域に認定し、立ち入り禁止にして、売られた獣人を複数の人間を介して買い戻し証拠隠滅した。
そうやって時間をかけて獣人の実在をぼかしていったんだ。
ここは今でもザクトガードの庇護下にある。
許可なく侵入する者はザクトガード兵に捕まって追い出されるんだ。
……全部、姉さんに教えてもらった事だがな。」
クランヴェーネさんって顔の広さや知識が半端じゃない、どんなふうに生きてきたんだろう?
「……ところで先生。
先生とどこかへ出かけると、いつもトラブルに巻き込まれる気がするんですけど。」
「……私もそう思っていた。」
「特定の条件下で発動する呪いでもかかっているんですかね、わたし達。」
「笑えない冗談だ。」
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