第47話 襲撃
走り出した馬車の中でさっきの事について訊いてみる。
「クランヴェーネさん、護衛の人達が水晶丸の毛や爪を取ろうとしたって本当ですか?」
クランヴェーネさんは、風呂敷を開きながら答えた。
「ああ、本当だよ。」
「なんでそんな事を……」
「モンスターや半精霊を研究したい魔術師がいるんだ。
サンプルが欲しかったんだろう。
シャーリーンが言っていたんだが、翼猫の時も一部の者が死体を欲しがって、『ザクトガードとの関係に影響するから』って却下されたらしいんだ。
『生息地周辺では神聖な生き物とみなされている』からとね。
だから今回はこっそり取ろうとしたんだろう。
アルギンスには誰の命令かを調べてもらわないと。」
隣に座る先生がため息をついた。
「シャーリーンには、護衛の者を変えるよう言っておいた。
王都の魔術師には信用ならない者が混じっているようだ。」
「ああ、あったあった。
マノン、これを身に着けておいて。
なるべく肌に触れるように。」
そう言ってクランヴェーネさんが渡してきたのは、さざれ石のビーズで作ったネックレスだった。
「なんですか、これ?」
「水晶丸のおやつにいいんじゃないかと思って。
お祭りの屋台でよく売ってるおもちゃなんだけどさ。都合よくお祭りなんてやってないから菫が持っていたのを譲ってもらったんだ。
マノンの魔力を染み込ませたいから、着けていて欲しい。」
「菫さんの?
いいんですか、食べたらなくなっちゃうのに。」
これたぶんビーズと紐がセットになってて自分で作るやつだよね。
もったいなくないかな。
「菫はそういうの気にしないよ。あとお礼を言って欲しいと言われたな。」
「お礼?」
菫さんにお礼される覚えが無い。
「小平太が無遠慮に頭を撫でなくなったからだってさ。
自分が『髪が乱れるからやめてほしい』って何度言ってもダメだったのに、マノンに言われたらやらなくなったって。」
つい反射的に怒っただけで、どちらかというと恥ずかしい過去なんだけど感謝されると申し訳なくなる。
「身内が言ってダメでも、余所の人間の言うことなら素直に聞くってことあるからなぁ。」
……そういうものなのか。
ネックレスを首にかけ、垂れた部分は服の中に入れる。
「今から行く
「魔族!?」
「といっても九百年ぐらい前だそうだけど。その子孫がザクトガードに居るから今でも付き合いがあるんだ。今夜は四人共荒神さんの家に泊めてもらう事になったから。
あ、水晶丸もだ。四人と一匹?五人?」
四人……
先生、クランヴェーネさん、で二人あとは…
「え?わたし達もですか?」
村に着いたらわたしと清広さんはすぐ帰るのだと思っていた。
「うん、水晶丸に慣れてもらうのとネックレスに魔力を染み込ませるのに、そのぐらい時間が欲しくて。明日になったら清広がちゃんと送ってくれるから協力してほしい。」
「わかりました。」
水晶丸と一緒にいられるのも明日までか。
彼は窓から外を珍しそうに見ている。
あ、ちょっと浮いてる。
「飛んだらダメだよ。猫みたいにしていて。」
「猫ってなーにー?」
え、猫を知らないの?
「石喰みの谷には猫が居ないから見たこと無いだねぇ。」
うーん、どう説明したらいいかな?
「猫は、宙に浮いたりしない。四本足で歩いたり走ったりする。
あと言葉を話したりしない。にゃーって鳴く。
どこかにいないかな、見れば分かりやすいんだけど。」
残念なことに猫は見当たらなかった。
往来の激しい大通りじゃ猫ものんびり歩いているわけがないよね。
清広さんが操る馬車は順調に道を進み、昼過ぎには荒神村に着いた。
大きな木の門をくぐって村で一番大きな屋敷へ通された。
ここまで見た感じ、わたしの故郷の村より大きい。倍以上の人口がありそう。
「ようこそ、荒神村の村長をしております。荒神と申します。こちらは私の娘の
村長さんは五十代前半の男性、娘さんは二十代後半に見える。二人共凛々しい顔立ち、体も細いが筋肉がついていて強そう。
特に娘の李花さんは女性なのにショートヘアに袴で活発な見た目、しかもかなりの美人。今まで見たトタの女性には居なかったタイプ、格好良い。
「明日の出発まで皆様の安全は我々が守ります。どうぞ安心してお寛ぎ下さい。」
村長さんは李花さんにわたし達を任せて仕事に戻っていった。
「李花さんの着物、格好良いですね。」
「男物で驚きましたか?魔の森から猪が出てくる事もあるので動きやすい方がいいんです。」
「驚きましたが素敵だと思いました。
……荒神さんのお家は魔族とご縁があるそうですね。」
つい好奇心に負けて質問してしまった。
そっちが本命かと言いそうな笑みを浮かべ答えてくれた。
「はい。九百年前に我が家から魔力の高い者が生まれまして、その者はザクトガードに移住しました。
その子孫との縁がまだ続いていて友好関係にあります。
今回は私共がお役に立てそうですね。」
「トタとザクトガードがこっそり連絡取りたい時の便利屋って訳だよ、ぶっちゃけるとね。
ワタシと同じ。」
クランヴェーネさん、反応に困るよ……
曖昧に笑ってごまかしてしまう。
先生達は食料など必要な物を揃えに行くらしい。
清広さんは何度もこの村に来ていて顔が利くので一緒について行く事になり、わたしは夕食まで暇になってしまった。
「少しなら外に出ても大丈夫、村の中なら皆が見てるし危険は無いです。」
なら庭に出てみよう。
ここは小平太さんの家と違って、作り込まれた美しさではない。
あっちは計算して作られた洗練された都会の庭。
こっちは田舎の素朴な感じが落ち着く、何も植えてない広場を中心にした庭。
作業場としても使うのではないかな。
庭とそれ以外の境目も塀とか無くてよそ者にはどこまで庭か分かんない。
塀は村の周りにしか無い。害獣避けかな、猪が出るらしいし。
「あ、猫が居るよ。あっちの林の所。」
「あれが猫ー?寝てるー。」
屋敷から少し離れた所、村の入り口の方向に三毛猫を見つけ、水晶丸と近づく、驚かさないようにゆっくりと……
バサッ!!
わたし達の上に何かが被さった。
視界が黒くて見えない。
「このガキは?」
「連れてっちまえ!売れるだろ!」
な、何!?なんなの??
男の声、複数!?
「何者だ!!」
鋭い女性の声がして、男達が離れていく足音、次いでヒュン、ヒュンと風を切る音がした。
「ぎゃあ!!」
「痛えぇぇ!!」
「取り押さえろ!!」
「マノンさん!!大丈夫ですか!?」
駆け寄ってきた女性に助けられ、辺りを見回す。
「李花さん、なにが起こったんですか?」
村の人達が足に矢の刺さった二人の男を捕まえていた。
弓を持っているのは李花さんなので彼女がやったのだろう。
側にはわたし達が被せられていた目の細かい黒い網。
「すまない、マノンちゃん!俺が一緒にいれば良かったのに……」
清広さんがやって来て謝るが、何が何やら分からない。
先生とクランヴェーネさんもこちらに走って来ていた。
「お前、弥太郎か?」
村人が男の一人の顔を見て話しかけた。どうやら知り合いらしい。
「何者です?」
清広さんの問いに李花さんが答えた。
「この村の者です。町で働いていると聞いていたのですが……」
李花さんの顔には困惑の色が浮かんでいた。
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