第25話 一日目 夜 ザーツ子爵邸

 私達はマノン達と別れて魔力の出所へと向かっていた。


「今度こそクビだな……」


 胃のあたりを抑えるハロルドの姿を思い出す。

 偶然とはいえ、淀みの森に続き大変な事態に生徒を巻き込んでしまったのだ。

 今思えば一度王都から出た後、こっそり戻れば良かったのか……

 三人には王城前で待ってもらっている。

 今から行く所は人間には危険すぎる。


 私達が放った『目』はある屋敷の周りに集まっていた。

 恐ろしいほどの魔力が屋敷のドアや窓、煙突など隙間という隙間から出ている。

 マノン達には言っていないが私達が着けている魔道具は一つではない。

 結界のある街に入る時はそれで人間並みに魔力を抑えている。

 魔力を通さない布で口と鼻を覆ってもいるが、長居はしない方がいいだろう。

 

 屋敷の車寄せにはあの妙な車が停まっている。

 ザーツ子爵とやらも玄関ホールに倒れていた。


「地下室だろうな。」


 魔力石の保管庫は大抵地下にある。

 土が魔力が外に漏れるのを防いでくれるからだ。

 地上に保管庫を作ろうとすると砦よりも分厚い壁や天井が必要になる。


 意識の無い人間があちこちに転がっているを横目に地下室へと向かう。

 地下のいくつかの部屋の一つ、他に比べて扉が頑丈なそこが目指す場所だった。 

 固く閉ざされていなければいけない扉は少し開いている。

 中にあるのはたくさんの箱だ。

 密閉性の高い金属の箱で、ザクトガードから運ばれてくる魔力石は全てこの箱に入れられている。

 一つ一つが大きくて数も多い。

 いくつか蓋が開いている。


「これは使用人?いや身なりが良いな。」


 保管庫の中に倒れていた人物はザーツ子爵と一緒に車に乗っていた男だった。


「貴族だろうな。それにしても開いている箱に比べて魔力が多いな。」


 箱の蓋を閉めながら疑問を口にした。


「もしかしたら、魔力石の方に問題があるかもしれない。」


「え?」


 どういう事だろうか。


「あまり知られてないけど魔力石には密度によって等級があるんだ。密度の高い、つまり等級の高いものは、ザクトガードの研究機関が管理していて一般には渡らないようにしてるから等級の低い物しか市場に出回らないはずなんだけど。」


「この男はどうします。」


「一階まで運んで転がしておこう。腹立たしいけど死なすわけにはいかないからね。」


 仕方ない、私が担ぐか……


 保管庫を出て扉をしっかり閉める。一階に上がるとすぐに男を廊下に置いた。

 少し乱暴になったが運んでやっただけ感謝して欲しいものだ。


 すぐにマノン達と合流しなければ。

 屋敷を後にして王城へと向かった。

 オーブの所に行くには王城の地下通路が唯一の道だとクローディアが言っていた。

 

「結界を壊したら、黙って消えるつもりだったのになぁ。うまくいかないねぇ。あの子達を巻き込んじゃって、ダメだなぁ……」


 姉の呟きが冷たい夜風に流されていった。 


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