第38話 突入
森から現れた先生は氷の彫刻のように無表情だったが、黒いオーラが見えそうなほど怒っていた。
それでも吹っ飛ばされた二人を見て抑えることにしたらしい。
手にしていた翼猫の時の剣を、すぐに小さくして服の下にしまった。
先輩がわたしに駆け寄り抱きしめてきた。
ずっと心配してくれていたのだ。
膝から力が抜けて二人で地面に座りこんでしまった。
地面についた手の平がちょっと痛かったが些細なことだ。
「あーもー、いつクライヴさんが飛び出すかって、ヒヤヒヤしっぱなしだったわよ~。」
シャーリーンさんが頭ををワシワシとかきながら歩いてきた。
「シャーリーンさん何でここに?王都に帰ったんじゃなかったんですか?
それにこの人は誰なんです?」
「ああ、急ぎの用だって親に呼ばれて実家に帰ったら見合いが用意されててさ。仕事にかこつけて、逃げてきたんだよ。
その人はぬばたま一族の長。イズミの町を治めてる一族さ。で、あの地面でのびてる二人は彼の息子と甥。攫われた女の子は、彼の娘。」
ぬばたま一族はここがイズミの国と呼ばれていた頃からこの地を治める一族だ。
湖の水源に住む伝説の竜を神と崇め、その加護を受けし姫を守ってきたといわれている。
『ぬばたま』は竜の加護を最初に受けた姫の名だったらしい。
「柊、竹彦、いつまで寝ている。さっさと起きろ!受け身ぐらい取っただろう。」
受け身!?あの状況で?無理でしょ。
しかし、二人はノロノロと起きあがってきた。
「父上、何故ここに?」
小柄な男が言う。こっちが息子か、名前は柊だったかな。
「
「……隠密……」
大柄な方、竹彦が呟いた。心当たりがあるみたいだ。
「躑躅が見知らぬアルギンス人の馬車に乗ったと聞いて連れ戻しに来たのだ。
……それよりも、お前達はあのお嬢さん達に言う事があるだろう。」
「すみませんでした……」
「申し訳無い……」
柊と竹彦がわたし達に頭を下げるが、なんか嫌嫌って感じ。
先生が二人に刺すような視線を送ってるし、もうちょっと誠意を見せたほうがいいんじゃないかな。
「来たみたいね。」
何が?と問う前に馬車の音がした。
その後ろには馬に乗った人もいる。
「クランヴェーネさん?」
馬にはクランヴェーネさんが乗っていた。
「マノン、クローディア久しぶり。ここで会えるとは思わなかったな。」
馬車はわたし達の側に停まる。窓が小さく開いた。
中の人物にわたし達は驚いてあっと声を上げた。
「ごめんね。巻き込む気はなかったんだけど、あの二人が何をするか見ていたんだ。」
シャーリーンさんが頭を下げる。
わたし達に付いているはずの護衛が何もしなかったのはそのせいか。
「こんな近くで騒いでいるのに屋敷から人が出てくる様子がありませんね。」
「あの屋敷にはもう連絡済みだからね。知らないのは犯人達だけさ。」
「私達は何に巻き込まれているんです?」
クローディア先輩が尋ねる。
「先ず、あたしの方だけど家出人を連れ戻しに来たのよね。」
シャーリーンさんが言った。
「家出、ですか?」
「そう、身分の高い人だから内密にね。」
「ワタシの方は
クランヴェーネさんは長と知り合いなのか。
あと彼の名前はヒオウギっていうらしい。
「彼女にも頼まれたしね。」
馬車を手で示す。
「じゃ屋敷に突入しようか。クライヴ、暴れていいぞ。ちょっと脅かしてやろう。だが傷つけるなよ。」
「造作もない。」
先生がにやりと笑って剣を出したが、さっきより小振りだ。
室内で使う事を考えてだろうか。
剣が発する光も違った。少し緑がかっている。
「行こう、マノンとクローディアも事の顛末を知りたいだろう?」
確かに、このまま帰されてもモヤモヤしたものが胸に残りそうだ。
わたし達はぞろぞろと屋敷へと向かった。
「すみませーん!」
クランヴェーネさんが玄関のドアをバンッと開けて叫んだ。
「何者だ!」
兵士と思われる男が出てきた。
「迷子を探してるんですけどー、来てませんかー?
十二歳の女の子なんですよー、着物に黒髪のかなり可愛い子なんですけどー。」
「知らん!帰れ!」
「えー?
でもぉ、ここに入っていくのを見たっていう人がいるんですよぉー。
勝手に入っちゃったのかも。
念の為探させて下さーい、お邪魔しまーす!」
「こら!入るな!
侵入者だ!!捕らえろ!!」
奥から十人ほどの兵士が出てきて、最初の一人がクランヴェーネさんに手を伸ばす。
「出番だぞ。」
クランヴェーネさんが呟くのが早いか、先生が兵士の手を剣で弾いた。
途端に兵士はその場に崩折れる。
驚くわたし達にクランヴェーネさんは囁いた。
「眠らせてるだけだよ。」
立て続けに兵士達は倒されてしまい、床ですやすやと寝息をたてている。
屋敷の規模に比べて少ないのは、連絡済みって話に関係があるのかもしれない。
「一番大きな客間に居るってさ。」
ずんずんと進んで目当ての部屋を見つけると、エルフの二人が勢いよく飛び込んだ。
遅れて入ったわたし達が見たのは、先生とクランヴェーネさんに剣を突きつけられて真っ青になって震える二人の男。
一人は執事風の老人、もう一人はラフだが品のある格好の四十代半ばの紳士。
それにお茶のカップを持ち上げたまま固まっている少女。
「ひ、控えよ!!
このお方がアルギンス国王と知っての狼藉か!!」
老人が震える声で叫んだ。
……そろそろ誰か詳しい説明をして下さい。
理解が追いつきません……
農業向いてないから魔術学校入ったんだけど大変な事に巻きこまれてる むろむ @muromu-k
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