第10話 森の中 忘れていた人物と会う ※
「ここもか……
魔力計が赤い、どういうことだ?」
森の外から赤く光る魔力計が見えて調べに来てみれば、オーブは赤やオレンジの物ばかりだった。
魔力溜まりができるといっても黄色いオーブが数個見つかる程度のはずなのに。
マノンには見えていなかっただろう、エルフは人間より目も耳も良い。
「っ!!」
森の中に人がいた。
姿を見るまで全く気配を感じなくてぎょっとする。
「やぁ、エルフ君。」
女性だということだけ、かろうじて分かる。
何度か会ったことがある筈なのに顔を覚えられない。
よく見ようとすれば頭の中に靄がかかったようになってしまう。
そして、今姿を見るまで彼女の事を一度も思い出さなかった。
彼女を目の前にしていない時は、彼女の事を思い出せない。
今視線を外すだけで簡単に忘れてしまうのだろう。
こんなに怪しい人物なのに。
おそらく魔術だ。
「お久しぶりです。
夢作というのは彼女が以前名乗った偽名だ。
『本名は秘密。夢作とでも呼んでくれ、故郷の言葉でボンヤリしてる奴みたいな意味だよ。昔よく言われていてね。気に入っているんだ』だそうだ。
「うん、久しぶり。
君に会うのは五回目だったかな……
まあ、それよりもご覧よ。
魔力が異常に高くなっている。
少し前にロドン山が大噴火したんだよ。アルギンスにも報せた筈だけど知っているかな?
記事を新聞に載せたと言われたけど。」
「いいえ、初耳です。ここの魔力とそれが関係あるんですか?」
「ああ、うん。
その時一部の魔力が雨雲に混じってね、離れた所に魔力の濃い雨を降らせたんじゃないかって説が出てシミュレーションしてみたんだ。
その結果、アルギンス東部の可能性が高いって出たから見に来たってわけ。
ここには魔力計がたくさんあるから分かりやすいだろ?
見事に赤くなっちゃてるよね。」
「それを調べるためにここへ?
夢作さんはザクトガードの人なんですか?」
「今はザクトガードの人かな。
ここへ来たのは、別件で近くに来ていたからだよ。帰るついでに寄ったんだ。」
「……夢作さん、私に魔術をかけていませんか?初めて会ったときからずっと。」
「ああ、気がついた?
君だけでなくみんなにかけているんだけど、やっぱり君は人間のようにはいかないね。
ごめんね。君の安全の為には、わたしと知り合いだなんて覚えていない方がいいからね。」
頭の靄が濃くなってゆく。
「わたしはもう帰るよ。家の者に言わずに来ちゃったからね。君も帰ったほうがいい。ここの事、街に報せてくれるかな?」
「それは構いませんが……」
夢作さんが歩き去る。
靄が頭の中を覆い、そして……
……マノンを随分待たせてしまった。早く戻って、街に連れ帰らなくては。
一人だと時間を忘れてしまうのは私の悪い癖だ。
この森の状況、数日前に新聞で見たロドン山の噴火が関係しているかもしれない。
……?
少しだけ腑に落ちない感じかあった。
いや、今はマノンと合流するのが大事だ。
重要な事なら後で思い出せるだろう。
森の外に戻って来たが、マノンの姿がない。
場所を間違えたか?
目印にと枝に結んでいたサンドイッチの包み紙がある。ここで間違い無い。
「ん?」
少し離れた地面に何か黄色い物が落ちていた。
これは……
「マノンの髪留めの飾りか?」
まさか森に入ったのか!?
森に入るとまた黄色い飾りが落ちていた。
……みゃー
猫の声?
こんな所に?
学都はペットを飼うことに厳しい制限がある。
飼われている数は少なく門の外に出すときも申請が必要だ。
他の町や村は離れていて、猫がここにいる可能性は低い。
嫌な予感がした。
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