農業向いてないから魔術学校入ったんだけど大変な事に巻きこまれてる
むろむ
第1話 マノン
わたしは緊張しながら廊下を歩いていた。
担任の先生に呼び出されたからだ。
昔は貴族の館だったこの校舎の廊下は長いけど、永遠には続かない。すぐに目的地についてしまった。
深呼吸して重厚な扉をノックする。
「どうぞ、お入りなさい」
落ちついた女性の声にて招かれて部屋の中へと入る。
中に居るのは品の良い初老の女性。
わたしの担任のマルグリット先生だ。
「先生、お呼びでしょうか?」
「ええ、呼びましたよ。
マノン、大事な話がありますからね。そこに座りなさい」
窓から入る陽光を背に受けて、マルグリット先生は座っている。
勧められた椅子に腰かけると、先生はわたしの目を見て話し始めた。
「先日のテストですけれども、あれはどういうことです?
赤点は免れましたが、少々危なかったではありませんか」
予想はしていたけど、やっぱりそれか。
わたしも、ちょっとやばかったなって思っていたのだ。さて、なんと言おうか…
「ええとですね、その……」
「正直におっしゃいなさい。毎日図書館に行っていたと聞きましたよ。勉強をしていたのではなかったのですか?」
マルグリット先生が、まっすぐわたしの目を見ている。ごまかすのは無理そうだ。
「実はですね。授業に関係ない本も読んでいまして……」
というか、最近は関係ない本しか読んでいなかった。
「そちらに少し夢中になりすぎたといいますか……」
マルグリット先生は、こめかみを指で抑えながら尋ねてきた。
「ちなみに最近は、どんな本を読んだのですか?」
「……えっとですね。『世界の服飾史』という本ですね。人間がまだ原始的な生活をしていた頃から今に至るまでの服装の歴史が、絵を交えて分かりやすく説明された本でした。この王国だけでなく、隣国のザクトガードやトタ、世界中の少数民族までを網羅した非常に詳しい内容で、生地の見本まで貼ってあったんです。その前は、『農業と人間』という本で……」
「……マノン……」
感情を押し殺したマルグリット先生の声、でもわたしは話すのをやめられなかった。
「わたしも農村の出ですから、食料生産の重要性は理解しているつもりでした。しかし、その本は、文化、芸術面への影響についても少なくない具体例を挙げて説いていて……」
「あなたは魔術師になるのでしょう!?」
マルグリット先生が、ヒステリックな声を上げて、わたしは我に返る。
そうだ、ここはアルギンス王国立魔術学校。魔術師を養成する学校だ。
「……すみません。」
「脇見ばかりしていては、卒業までこの学校に居ることはできませんよ。せっかく難しい試験に合格して得た学費免除も打ち切られて、実家に帰ることになるかもしれません。」
ハッとした。
うちみたいな庶民じゃここの学費は、払えない。だから狭き門の奨学金の試験を受けたのだ。
「しばらく図書館は禁止です。自らの本分を全うしなさいいいですね!」
「はい!」
「わかったならもう行きなさい。」
一礼して部屋を出る。
ドアを閉める寸前、深いため息が聞こえたのは気のせいではないだろう。
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