第34話 日常へ

 スザンヌさんのお陰で中に入れたが、質問攻撃は続いた。

 先生のお姉さんのお弟子さんであること、事故の後に一緒に先輩の家に避難していたことを説明して一応納得してもらった。


「彼も災難ね、ちょうど王都に来ている時に大事故に会うだなんて。」


「どこにも行けなくて残念だったよ。先輩のお家は綺麗で見応えあったけど。

 あ、これ先輩からもらったんだけどメアリーとリジーにどうかな?絵や衣装の参考に。」


 役者さん達の写真を目の前に並べて見せた。


「……これ、王都の若手役者さん達!?いったいどうやって?王都でしか売ってないからなかなか手に入らないのに!」


「クローディア先輩がくれたんだよ、たくさんあるからって。」


 メアリーは夕方に、リジーは次の日に下宿に帰ってきた。

 二人ともわたしや王都出身の友人を心配して早く家から出てきたのだ。

 王都を迂回したので遅くなってしまったと言っていた。

 役者さんの写真をを渡したら二人共喜んでくれた、結構有名な人達だったらしい。


 学校は当初十五日の休みの延長を想定していたらしいが、実際は七日と意外と早く再開されることになった。

 不便になった王都よりも学都で過ごしたいと考えた者が多く、生徒が早く戻ったからだ。

 生徒よりも王都に家族の居る教職員の方が遅かったとクライヴ先生から聞いた。


 休みが終わる前にと先輩が遊びに来てペンダントを作り、その後は五人でお茶とおしゃべりを楽しんだ。


 先輩がリジーとメアリーをさん付けで呼ぶと二人は笑って言った。


「呼びすてにして。魔術学校と違って上下関係緩いのよ。年上でもそれが普通だから。」


「マノンにもここに来た時そう言ったのよ。」


 リジーが先輩に絵のモデルを頼むと先輩は快く引き受けた。

 二人は同い年だし親近感あるのかも。


 なんかこういうのいいな。

 わたし、他の人が話しているのを見ているのけっこう好きなんだよね。

 先輩と二人だと必ず話さないといけないから少し疲れる、楽しいけどね。


「マノンのことも描いたのよ、見て。」


 リジーがスケッチブックを開いて先輩に見せるので慌てて止める。


「ちょっと、リジー!何を見せる気なの!?」


「大丈夫。最近のしか見せない、上手く描けたのだけ。」


 実際のわたしより美人に描かれているから、なんか恥ずかしいんだよ!


「わ、マノンの特徴を上手く捉えてるわね。」


 先輩が喜んでいるので、見るなとか言えなくなる。


「これが一番気に入ってるの、メアリーの作った服を着た時の。」


 うわぁぁぁ!!それはぁぁ!!

 メアリーが舞台の子役の衣装を真似て作ったやつ!

 男装ぉ!!

 動きづらくないか見たいから着て動いてみてって言われたやつだ!

 『サイズが合いそうなのはマノンだけだから』ってメアリーが頼むから!

 なんか妙にウケてリジーにポーズとらされて描かれた。

 『本当の男の子にはモデルになってくれなんて気軽に言えない』って言われちゃったから、つい『わたしで良ければ』って言っちゃったんだよね。

 二人共夢の為に努力してるのは知ってるし協力しないと悪いかなって思って。

 

「かわいい~」


「似合ってるでしょう?自信作なのよ。」


 メアリーが誇らしげに胸を張る。


「リジー!他の人には見せないって言ったじゃない……」


「クローディアとは仲が良さそうだから大丈夫だと思ったんだけど、駄目なの?」


 小首を傾げて不思議そうにするリジー、何が悪いか分かっていないらしい。


「クライヴ先生にも見せたいわ。」


「それは駄目です!!」


 先輩だけでも恥ずかしいのに先生になんて無理!




 そんな感じで楽しく過ごしてるうちにあっという間に休みは過ぎて、登校する日がやって来た。


「マノン、おはよう。」


 教室に入るとルカ君に挨拶された。


「おはよう、ルカ君は実家が王都だよね。大丈夫だった?」


「ぼくは大丈夫。父と上の兄は忙しくなっちゃったから邪魔しないように下の兄と学都に帰ってきたんだ。」


「ああ、お医者さんだっけ?」


 確か父、長男がお医者さん、次男が医術学校の生徒、三男のルカ君は魔術学校だった。


「うん、ぼくも手伝いたいけどまだ何も学んでいないからね。」


 医者だけでなく魔術師も高魔力症の治療を学ぶんだよね。

 仕事で魔力石を使うから処置を知っておかないと危険だし。


「ロドリゴは一緒じゃないの?」


「僕ならここに居るが。」


 かなり近くから声がしてびっくりした。


「ロ、ロドリゴおはよう。」


 まずい、心の準備ができてなかったから顔が作れてない。

 だが、ロドリゴは気にする様子はなかった。


「新しい先生が来たらしい。元宮廷魔術師だ。きっとまた結界を張る為に優秀な人材を探しに来たんだ。」


 シャーリーンさんのことか。

 ワクワクしているみたいだ。顔が輝いている。


「マノン、もう君が一番になることは無い。僕がこの先ずっと一番だからな!そして新しい結界を作るのは僕だ。」


 結界に関われば自慢できるもんね、気持ちは分かる。

 

「がんばれ~」


 簡単に一番を譲る気はないけどね。クライヴ先生に怒られちゃうもの。


「なんだその気の抜けた言い方は、マノンのような庶民だってこの非常時なら宮廷魔術師になれるかもしれないぞ。」


「え、卒業してもロドリゴと一緒なのは嫌。」


「こっちだって……!」


「はい、授業を始めますよ。席に着いて。」


 笑顔の怖いマルグリット先生が後ろに立っていた。

 他の皆はすでに席に着いていて、ジェシカが『何やってるのよ……』と言いたげな顔をしていた。

 久しぶりのロドリゴとの会話が楽しくて、油断した。

 慌てて席に着く。


「王都の事は気になるかもしれませんが、授業に集中するように。」


 教室の空気が引き締まる、帰ってきたって気がする。

 王都出身の生徒も全員出席している。本当に良かった。


 わたしも王都で死んだり、牢屋に入れられてもおかしくなかったんだよね。

 助けてくれた人達に感謝して、今は与えられたこの日常を満喫しよう。

 

 

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