第6話 勘違い

 西洋人のような碧眼に黒く短い髪。

高校2年生にして180cmある高身長。

制服は伊吹村に唯一存在する高校、伊吹高校のものだ。

 黒い学ラン姿の彼は、その碧眼を細めて私を睨みつけていた。

せっかくのイケメンが台無しなことを言っているなと私は思った。


「霊力を奪ったのはお前らしいな!」


 何その設定。

霊力って奪える設定ってあったの?初耳なのだが。

ゲームをもっと進めていたらあった設定なのかな。

 いや、普通に考えてもないでしょ。

それに年上に対して無礼にも程がある。お前ってなんだお前って。

 私は無視という選択肢をとることにした。

どんどん彼は近づいてくるが、もみじちゃんの姿がない。

まだ帰宅途中のようだ。

 ならここに用はない。私は屋敷に向かうことにした。


「無視するな!」

「神様どうにかしてくださいよ。」

「わかったわかった。おい、小僧。喧しい、黙れ。」


小声で言うと肩に乗っていた赤い鳥の神様が対処してくれた。

神というだけあって小さいのに凄みというものがある。

未だに何の神様なのか知らないけど、ありがたい。

今夜はお礼にこの神様へお供物をしよう。


「鳥に用はねぇよ!もみじが泣いてたんだ!」


 待って。

神様に対しても無礼過ぎない?

ちょっと親御さんの教育どうなっているんですかね…私は厳しく育てられましたが。

 唯の鳥じゃないことくらい、わかると思うんだけど。

その辺に居る八百万の神様とはまた別格の神様だと思う。

何せ気配がまるで違う。

 彼は攻略キャラクターの1人であり、巫女の守護者の1人でもある。

だからわからないということはないはずなのだ。

 何が彼をそこまで熱くさせているのか、わからない。


「小僧。誰に向かって口を訊いておる。あまり過ぎると儂が小僧の家を呪っても良いのだぞ?」


 やっぱり神様は怒ってしまった。

私も同じ立場だったらきっと怒るだろう。

フォローしようがない。

 彼自身で何とかしてください。私は、知りません。

流石に莫大な神力を感じたのか、北山くんは黙った。

 私は無視を決め込んでいるので彼の姿は写っていないが、どうやら立場を理解したらしい。

守護者にとって家とは絶対だ。

 それを呪われるとなっては守護も何も出来やしない。

だって能力が出なくなってしまうのだから。

彼が立ち止まったのが聞こえると、再び屋敷に向かった。


今日のお夕飯、何にしようかな。


お手伝いさんと相談するのが楽しみだった。






「紅葉さん料理が上手いのですね。とても美味しかったですよ。」

「ありがとうございます。お口に合って良かったです。」

「……。」


 京子さん、もみじちゃんと3人で夕食を摂った。

あれから10分程経ってからもみじちゃんが帰ってきた。

声をかけたが完全無視をされてしまった。

 どうやら、自分の思い通りになっていないことが気に入らないらしい。

この前の夜の言い方だと、攻略キャラクター全員から愛されたいみたいだし。

逆ハーレムというやつだろうか。

ここは架空の世界だから出来ないこともないと思うけど、それは多分難しい。

 だって私たちにとってここは架空であっても、ここの世界の人にとっては架空こそが現実なのだから。

私はゲームが好きな人間ではあるけど基本的に現実主義者だ。

 そんな浮かれた考えは持つことは出来なかった。


 神代もみじとして生まれ変わった彼女は、逆ハーレムを築いて一体何がしたいんだろう。

この、滅びかけている世界の中で。


彼女の真の目的がよく分からなかった。

でも考えたところでもみじちゃんを理解できるとは思えない。

私は明日も早いこともあってさっさと就寝することにした。




翌日。


「貴女が紅葉さんでしょうか。」


 修行を一旦打ち切り、神社内の清掃をしていると落ち着いた男性の声が後方からした。

また聞いたことがある声だ。

 批判されるのかなぁと少し覚悟をしながら振り向くと、その男性は穏やかな笑みを浮かべていた。

 群青色の髪色、肩まである長髪、着流し姿。

身長は190cm以上。

私と同じ歳の攻略キャラクターの1人、南雲武幸がそこには居た。

 あらまぁイケメン。落ち着いた大人って感じだ。

目の保養になる、と至極どうでもいい第一印象を持った。




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