第19話 隠された歴史

今日の巫女の仕事を終えてから京子さんに私は尋ねた。


「京子さん。この村の歴史について教えて貰えませんか。」


そうすると、彼女はとても気まずそうな顔をしていた。

東野くんと同じ反応である。

──やはりこの村には何かある。

そう確信した。


「貴女は本当に優秀な巫女ですね。」

「え?」

「私が教えていないことまで自分で思考して辿り着く。なかなか出来ることではありません。」


 そう、だろうか。

言葉に思わず詰まってしまった。

 まるで京子さんの言い方は、何故辿り着いてしまったのかと言っているかのようで。

何かを諦めたかのような言い方だった。


「正直にお話します。ですが、それを知っても巫女として怨鬼神を鎮めてくださいますか?」

「…そう言われてしまうと約束できかねます。」

「良い反応ですね。慎重なのはとても良いことです。」


そう言って話始めた。

この村の歴史の根幹となる、ある神と巫女の話を。





 はるか昔、今よりも八百万の神々が居たそうだ。

だが人間があることを始めたことにより神々は減少するというあり得ないことが起こり始める。

神々には人間でいう生命力というものが常に備わっている。

 そのはるか昔には霊力がない普通の人間でも神々を見ることができ、肉体があったため、起こってしまったことだった。

ある時、今の村にあたる集落では大飢饉が起こり始めていた。

人々は1秒を生きるのに必死で、どんなものでも口にした。

 そうして生き延びていた。


そう、どんなものでもだ。

それが、神と呼ばれるものでも。


 生命力の強い神々から喰われていった。

力ある神であろうと、生きようと必死にもがいている者達に群がらればたちまちに喰われる。

グンタイアリと同じようなものだ。

 それはとある巫女と神が結ばれようとしていた時もそうであった。


 巫女は集落の者から無理やり引き離され、夫となる愛する神を喰われた。

残ったのは、生命力をなくし神ではなくなった骸のみ。

その神が普通の神ならば消えるだけだった。

 だが、その神だけは違ったのだ。


その神は、天地を創造した創造神と呼ばれるものだった。


別格の神を集落の人間は喰らってしまったのだ。

そうなればどうなるか。


神が墜ちることがあるならば、怨念の塊となる。

そう、それが怨鬼神と呼ばれるようになった悲しい神様。

そして神代の巫女と後に呼ばれるようになったのが怨鬼神の妻となるはずだった巫女。


それが隠された後に伊吹村と呼ばれる村の歴史。


 伊吹童子は、人間をその怨鬼神から最初に守ったあやかしだった。

そのため伊吹村と呼ばれるようになり、伊吹童子を祀るようになったのだ。

神代の巫女しか怨鬼神を鎮めることができないのは、その妻となるはずだった人物だから。

 集落の人間は巫女にお願いをして神代の巫女は鎮めることを約束したのである。

──集落を守る、巫女として。

守護者とは神と同じく扱われた。

その者達のみ、神を喰うことをせず神の力を借りて行使することが出来たから。



『人間とは無力に過ぎないのです。』



 その話を聞いて、夢で聞いた言葉が反芻された。

守りたかったものは、同じ人間に奪えわれ永遠に失われた。

築き上げるはずだった幸せを、奪われた。

 残されたのは骸と怨念のみ。

 どれほど辛かったことだろうか。


巫女がどんな気持ちだったのか、想像は出来でも分かったつもりにはなれない。

何故なら当事者ではないから。

でもあの夢でも巫女の悲しみは伝わってきた。

それだけは分かった。理解できた。


「人間とは無力で、時に残酷でもありますね。」


 そう言って京子さんは村の隠された歴史の話を終えた。

呪いの箱を持ってきたあの村人はそこまで知らないと思う。

だが、あそこまで間引いた人間のモノが入っていたということはこの村にはそういう歴史があったということだ。

 それが怖くなって私の元へ持ってきたのだろう。

想像以上の話をされてしまって、ここがゲームの世界だということを忘れかけていた。

確かに私は余所者だ。

 でも、この話を聞いてしまった以上見過ごすわけにはいかない。


悲しい神様とその巫女様を、幸せにしてあげなくちゃ。


乙女ゲームの世界なのだ。

だったら、ハッピーエンドが1番に決まっている。


攻略の仕方なんてさっぱり分からないけど、自分の出来ることをすればいい。

私はその話を聞いてそう決意した。


「私は鎮めますよ。そして、初代神代の巫女の無念も晴らしてみせます。」


あの涙を止めてあげたい。

そんなちっぽけな理由で私はそう言った。


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