第18話 呪いの箱
主人公が帰省することになり、ほとんどこの世界の話は変わったと言っていい。
体調は翌日には良くなっていたのだが、もみじちゃんはもう屋敷には居なかった。
休んでいた間にもう帰省する準備をしてこの屋敷から出て行ったらしい。
お別れの言葉くらい言いたかったと思いながらも、現実はこんなものかと受け止めている自分が居た。
ちょっと冷たい人間なのかもしれない。
でも、色々とあちら側もやらかしていたしお互い様だろう。
これにて主人公の件については一件落着だ。
私の体調が良くなってからの村人の男性の依頼がとても厄介なものだった。
都市伝説は有名だと思う。
きららぎ駅とか、八尺様とか。
でも実際にそのようなものや場所は存在しない。
ただの作り話だ。
私には一生、関わりのない話だとそう思っていた。
でもここは架空の世界。
実際にあり得ても、おかしくはない話なのだ。
ソレを見た時背筋に悪寒が走った。
怨念って、呪いって、本当に存在するものなのだと知ったから。
巫女になってから様々なものを見てきたつもりでいた。
でもソレは、今まで見てきたものの想像を超えるものだった。
神々の力だけでは、祓うことはできない。
私自身の霊力を全部注ぎ込んで祓えるかどうか、といったところだ。
元の世界で友達から聞いたことがある話、コトリバコとほぼ同じ箱がそこにはあったのだ。
コトリバコというのは、簡単に言えば呪いの箱のことだ。
その箱の中のものが間引いた子供の指や臍の緒といった悍ましいもの。
女、子供には近づかせてはいけないといった決まりがあったとか。
幸いにも視界に入った箱にはそのような決まりはないようだけど。
でも中に入っているだろうものは、コトリバコとほとんど同じものだと思っていい。
禍々しい気配が、中身は見えずとも伝わってくるからわかる。
効果は相手を遠いところから呪い殺すこと。
かなりの年月、呪いがかかっている箱だった。
「この箱…。どのように管理してらっしゃったんですか。」
私は箱を持ってきた村人に尋ねる。
コトリバコにも管理方法があった。ならば、この村人にも管理方法があったはずだ。
「代々、私の家系の当主が管理していました…納家で。」
この村全体で分けて管理していたわけではないのか。
どうしても友人から聞いたコトリバコの方の管理方法を思い出してしまう。
違うとわかっていても、似たような話があればつい重ねてしまうのが人間というものだ。
「どうして今になって持ってきたのですか。この箱の正体をご存知ですよね。」
「はい…。私が管理することになって、怖くなったんです。この村のことも、この箱のことも。」
この村の歴史?
…ダメだ、余所者の私がそんなこと知るわけがない。
そもそもそこまでゲームを進めていないから予備知識もない。
今日の担当守護者である東野くんと目が合った。
少し気まずそうな顔をしていた。やはり、この村には何か秘密があるらしい。
「とにかくこれを祓います。貴方は何かあったら危ないので守護者と一緒にいてください。」
懐にしまっていた神楽鈴を出す。
怨鬼神を鎮める際に行う行為、針を指に軽く刺して神楽鈴に垂らした。
「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る」
昔、陰陽師が使っていたとされる呪文を唱える。
これは悪鬼を祓うものに使われるが、もうこの呪いは悪鬼言って差し支えないのでこの呪文を唱えた。
全力で霊力を注ぎ込んだ。少し、体力が奪われたように思える。
後は神楽を舞うだけ。いつものように祝詞を唱えて神楽を舞った。
呪いが私に牙を向けようとするが、神々がそれを許さない。
この世界に来てから神々をより尊重するようにしているので、このように守って貰えていた。
「終わり、です。2度とこのような箱を作らないようにと箱を作った人に言ってください。今回、私に霊力があるから祓えましたが他の巫女が祓えたかどうか保障はできません。」
「そ、そこ、まで…。」
「それだけ、恐ろしい箱なのです。ゆめゆめ、お忘れなきよう。」
怯えている村人に私は釘を刺した。
京子さんならこの村の歴史を知っているだろうか。
私は今日の出来事でこの村の歴史を知るべきだとそう強く感じた。
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