第17話 主人公の結末
私が意識を取り戻したのは、京子さんの怒声だった。
気がついたら自室の部屋の布団の上で寝かされており、衣服も普段着に戻されていた。
恐らく、ここまで南雲さんたちが運んでくれて後はお手伝いさん達が着替えさせてくれたのだろう。
ありがたい話だ。後でお礼を言わなければ。
私はゆっくりと起き上がろうとする。
起きあがろうとした、が力がまるで入らない。
どうやら自分が思っていたよりも霊力を消費していたらしい。
霊力は自身の体力が戻れば自然と回復する。
私は目を閉じることにした。
(体調を崩さないみたいなことを言っておいてこの様か…。)
ちょっと自分が情けなくなった。
あれは緊急事態だったから仕方のないことだけど、今日宣言したことなのにな。
守れなかった自分がやっぱり情けなく思った。
動けないので何もできやしないが、京子さんの怒声が凄い。
ヒリヒリとした空気がこちらにも伝わってくる。
神々を怒らせただけでなく、私を倒れさせたのもきっと原因なのだろう。
もみじちゃんの行動は今回はあまりにも考え無し過ぎたのでフォローすることは出来なかった。
まぁ、頼まれてもフォローするつもりはないけど。
「紅葉さん。起きていますか?」
「南雲、さん。」
「入って大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。西谷くん。」
2人も残ってくれていたみたいだ。
ことの経緯を説明してくれたのかな。
まずはお礼を言わないと。
正直、口を動かすのも難しいくらい体力がなかったが気合いで動かした。
こういう時、必要なのは意外と単純なものだったりする。
「顔色はまだ悪いですね…。」
「ちょっと、霊力を消費、し過ぎた、みたい、です、ね。」
南雲さんの問いかけに何とか答える。
さすがに営業スマイルを作る元気は残されていなかった。
「話さなくて良いですよ。…すみません、俺が不甲斐ないばかりに…。」
西谷くんのご要望通りに口は開くことはせず、首だけ振る。
そんなことはない、という意味を込めて。
「そのままで良いので聞いて下さい。もみじさんはご実家に帰されることになったそうです。」
嘘でしょ、何その急展開!?
でも良く考えてみればそうか…と納得している自分がいた。
霊力がない彼女がここに居たところで何か出来るわけでもない。
出来ると言ったら、私たちの足を引っ張ることばかりだ。
あんなに京子さんからお叱りを受けていたというのに、この始末。
擁護しようがない。
本当にさっきまでこの村は危なかったんだから。
「もみじの奴は村の存亡に関わることまでしやがった。だからもう、京子様も我慢の限界が来てしまったようで。」
さすがに2度目はないということか。
自分から呼びつけておいて勝手なことかもしれないが、あのもみじちゃんはそれを承知の上で存在していたのだ。
主人公らしい行動は出来なくとも、他にいっぱい出来ることはあっただろうに。
例えば、私と一緒に神社の清掃とか。
私に一任されてから全くしなくなったもんね、あの子。
出会う前まではしていたようだけど、面倒になったみたい。
困った話である。
展開を知っているなら、私と協力関係を結んで欲しかったな。
何せ、お話を途中までしか知らない中途半端な人間だから。
そしたら、誰かと共に結ばれる未来もあったのかもしれないのに。
自分でそのチャンスを潰してしまった。
潰してしまったものは、どうしようもない。
「これで、翔吾のやつも目を覚まして欲しいんですけどね…。でも、アイツはもう守護者じゃないから。関係のない話かもしれないんですが。」
寂しげに、西谷くんがそう言った。
本当に寂しいと思っているのだろう。何せ弟分なのだから。
北山くんが目を覚ますかといえば半々だろう。
恋とは盲目と言った話がある。
もしかすると、もみじちゃんを追いかけて転校してしまうかもしれないし。
…さすがにそれはないか。ご両親が許さないに違いない。
「色々と、あり、がとう、ござい、ます。」
せめてこれだけは言いたくて無理して口を開いた。
すると大層驚いた表情で2人は私を見つめていた。
驚くようなことは一切言っていないはずなんだけど…。
やがて頬が赤く染まっているのが見えた。
え?その反応は何なの?
「当代、神代の巫女が貴女で良かったです。」
まるで桜が咲き誇るようなそんな笑みを浮かべて、代表して南雲さんがそう言った。
身体に力が入らない私は、はぁ…とため息にも近いおかしな返事しか返すことが出来なかった。
その返事の仕方に全くと言って良いほど、不満がなさそうな2人がそこには居る。
私は2人の態度に疑問しか抱くことが出来なかった。
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