第24話 フラグ

「アンタも大変だな。」


阿南くんが気の毒そうにそう言った。

彼は神々から聞いて今の状況をよく分かっているらしい。

説明が省けるので有難いことだ。

秘密に出来ないという点については悩みどころではあるとは思うけど。

今、私は夜の風に当たっていた。

頭を冷やすにはとても良い冷たさだ。

そんな所に阿南くんがやってきたのだ。

彼が私を守護するということは、隠しキャラということであまりない。

最終決戦で協力してくれるというくらいだと私は思っている。


「まぁね…なんでこんなことになったかな。」

「余所者っていうのが大きいだろうな。もみじの奴も余所者ではあったが。」

「それだけでこんな目に遭うとは…。」


嫌ではないけど、今の状況を考えて欲しい。

告白するところではないと思うのだ。

今、この世界は崩壊の危機に瀕している。

恋愛をして浮かれている場合ではないのだ。

今の現実をしっかりと見なければ。

告白してきた彼らがどう思っているかは分からないが、少なくとも私はそう思っていた。


だから、今は彼らの気持ちに応えるということは出来ない。


「せめてタイミングをさ、考えて欲しいんだよね。今、恋愛どころじゃないと思うんだけど。」

「最悪、世界が崩壊するかもしれないから悔いが残らないように言っているのかもな。」

「いや、防ごうよ。その為の私と守護者でしょ。」


至極当然のことを言った。

私はその為にわざわざ主人公からお役目を貰い、守護者はその日の為に修行を積み重ねてきたはずだ。

挑まないで最初から諦めるなんてことはやめてほしい。

普通に死にたくない。


「まぁ、恋愛云々の話は賛成だな。俺も、その日が来るまでは浮かれた気持ちを出すつもりはない。」

「とてもしっかりした考えでいらっしゃる。」

「そうでもないぞ。俺は、その日までと言っただけだからな。」

「はい?」


彼の言っている意味が、分かりたくないような気がした。




翌日。


「僕ら、浮かれてなんかいませんからね。」


西谷くんが私と合流するなりそう言った。

…私のプライバシーは一体どこに行ったのやら。

少し、遠い目をしたくなったが彼の金色の瞳がそれを許そうとはしない。

朝から少々刺激になる行動は控えてもらいたいのだが。

彼はお構いなしに私に詰め寄ってくる。


「武幸さんがどこまで本気なのか知りませんけど、俺は本気ですよ。」

「西谷くん。巡回行かなきゃ。」

「話を逸らさないで下さい。」

「……。」


年下の圧に負けてしまい、何も言えなくなった。

ちょっと自分が情けない。


「俺は浮かれてなんかいません。ただ、貴女が好きなだけなんです。女性として。」

「えっと…。」

「今はお役目を優先させてもらって構いません。でも、俺のことも本気で考えて下さい。」

「…う、はい。」


つい、返事をしてしまった。

その返事に満足したのか、彼は離れていった。

ホッと胸を撫で下ろした。

それから巡回開始。

伊吹祭の準備は着々と進んでいるようだ。



そろそろゲームの終幕が降りようとしていた。
















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