第25話 前日と当日

伊吹祭前日。


私は南雲さんに夕方、呼び出されていた。

守護者が行う最終確認の為だ。


 伊吹祭当日は守護者は時間になるまでは村人や遠方から来た方々を相手するのだという。

怨鬼神が復活するのは大体19時頃。

その頃までには守護者全員が集合し、地鎮祭で舞った踊りとはまた違う舞を披露しながら私を外敵から守ってくれるらしい。

 ここで言う外敵とは八百万の神々のことを指す。

怨念に当てられて、恐らく敵に変貌するとのこと。

かつて、神を食べたという罪がこの村には残っているのだから仕方のない話だ。

 彼らは私が怨鬼神を私が鎮めている間に、私へ力を分け与えながら守護もしてくれるそうだ。

私はその旨の説明を彼から一通り聞いた。

京子さんからも軽く説明はあったけど、守護者は彼らなので直接聞いて欲しいとのことだった。


「流れは理解できましたか?」

「はい。丁寧な説明をありがとうございます。」

「村人に披露する舞は問題ありませんか?」

「ありません。京子さんにしっかりと見てもらいました。」

「それは良かった。では、明日迎えに来ます。」

「はい。また明日。」


南雲さんは西谷くんとは違い、一切私に恋愛関係の話をしてこなかった。

彼なりにリーダーとしての自覚というものがあるらしい。

きっと責任感というものが強いのだろう。

こういう所は大人の南雲さんとまだ未成年の西谷くんの差があるな、と思ってしまった。



翌日。


 いつもの巫女服に金色の菊の刺繍が入った透明な衣を纏い、最終確認を京子さんとした。

頭にも冠の形をした金色の装飾品を着けている。

巡回の時に祓う為だったりする時にする舞とは違った舞を今日は村人や遠方の人にも披露する。

 そのリハーサルみたいなものを屋敷で行った。

京子さんの教えが良いのか、しっかりと覚えることができており今日も無事に舞うことができた。

本番も緊張さえクリアしてしまえば得に問題はないだろう。

 あとは怨鬼神。

あの悲しい神様と初代の巫女の涙を拭ってあげなければならない。

それをどうしたらできるのか、私なりに考えてみたが答えはなかなか出ずにいた。

 結局の所、その神様と対話をしなければ意味がないような気がするのだ。

そうすることで初めて彼らの魂は救われるのではないだろうか。

最終的に私はそう考えた。だから、一発勝負みたいなものだ。

どのみち鎮めなければこの世界はバッドエンド。

 まずは鎮めること、そして対話をすることを目標にして意気込むことにした。



伊吹祭が始まった。

時間になるまで屋台を見て回って良いと京子さんに言われた為、気持ちを落ち着かせる為にも1人で回ることにした。

本当は守護者の誰かを誘うべきなんだろうけど、今は1人で居たい。

集中力を途切れさせたくなかった。

周りはこの世界の終わりなんか知らないといったように、時間が流れている。

でも、私が今日この日に神楽を舞わなければ世界は終わりだ。

どんな終わり方を迎えるかなんて想像もしたくないけど。

今、私にできることを精一杯やろう。


──周りに居る人々が、明日を迎えられるように。


私は空を見上げた。

まだ夕方だというのに夕日は生憎と見えない。

溢れ出して来た怨念によって、空が真っ暗に覆い隠されているのに気がついた。


──大丈夫。私は1人ではない。守護者のみんながいる。


恐ることなど何一つないと私は時間になったのを見計らって、神社へと戻った。





















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