第40話 余計なフラグ再び

「どこ行ってんのかと思ったらここに居たのか。」


お土産選びに熱中していた私は背後の気配に気が付かなかった。

阿南くんが私の後ろに居た。

1人にして欲しいと言ったばかりだったと思うんだけど、そんなに時間が経ったのだろうか。

時計を見てみると、意外と時間が経っていた。

迎えに来てくれたのだろうか。ちょっと申し訳ない気持ちになってくる。


「ごめん。熱中してた。」

「だろうな。何回か声掛けても全く気がついてなかったし。」

「申し訳ない。」

「別に構わねぇよ。買うものは決まったのか?」

「え?いや、まだちょっと悩んでいて…。」


面倒くさい奴とか思われたかな。

人に贈るものは慎重に選ぶタイプの人間なのでどうしても時間がかかってしまう。

そのことを理解してくれる人間は少ないことはわかっているので、文句を言われる覚悟を決めた。


「俺が居るからまだ悩んでていいぞ。」

「え、でも…。」

「いいから。気にすんな。」


阿南くんのことを私は少し誤解していたのかもしれないと思った。

口調は他の守護者と違って男らしい感じの人だ。

どちらかといえば乱暴。

だからこそ、こんな気遣いをしてくれるとは思ってもいなかったのだ。


「ありがとう。阿南くん。」

「……。」

「阿南くん?」

「あんまこっち見んな。」

「ご、ごめん。図々しかったよね。」

「そうじゃねぇよ。あんま可愛い顔見せるな。」

「…はい?」


阿南くんの言ってる意味を理解したくなかった。


お言葉に甘えてしばらく阿南くんのアドバイスも得て、じっくりと選んだ。

2人で選んでいる時間は、悪くなかった。不思議と心地良いものだった。

お土産は阿南くんが荷物持ちをしてくれた。

彼曰く、女に荷物を持たせる男が居るかよとのことだった。


ちょっとだけときめいてしまったことはここだけの秘密である。


「お帰りなさい。阿南くん、お迎えありがとうございます。」

「別に。紅葉に会いたかったから丁度良かった。」

「…そうですか。私も同様の気持ちでしたが、じゃんけんの結果は従うべきですからね。」


南雲さんが静かにそう言った。嫉妬心丸見えである。

え?私を迎えに来たのってじゃんけんの勝者だったの?

じゃんけんで決めてたの?

今更ながら知った事実に驚いてしまった。


「旅館の料理の前に温泉、皆さんでいかがですか?」


皆さんで?

それって私も含まれていますか?やめて欲しいのですが。

私は祈るような気持ちでそう思った。


私の祈りが神様に通じることはなかった。


「紅葉さん、こっちこっちー!」

「急いで来なくて大丈夫ですよ。」


タオルを入念に巻いて私は露天風呂に入った。

白い濁り湯で出来ており、身体が透けるということはなかったが水着とかの着用は禁止なので私の貞操はタオル一枚で守られている状態だ。

とても不安でしかない。

身体を洗うということはまず出来ないだろう。

だって5人の男がいるのである。

露天風呂は気持ちがいいが、気持ちが落ち着くということはなかった。


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