第41話 余計なフラグ再び②

露天風呂に入ってかれこれ5分は経っただろうか。

やはり落ち着くということはない。

もう逆上せてしまいそうだ。


「あの、私、一旦上がるんで皆さんその隙に身体洗って下さい…。」


若干フラつきながら私はそう言った。

めまいだろうか。

目の前がぐるぐると回っているような気がする。

身体から力が抜けそうになった。


「っと、危ないですね。すみません、身体に触れてしまって。」


そう言ったのは東野くんだった。

逞しい胸板の上に私の頭が重なっている。

逆にこちらが申し訳なくなった。


「いいえ…こちらこそすみません。ちょっとフラついてしまって。」


大事にならずに済んで良かった。

私は支えてもらいながら温泉を後にした。

なんだか背中の視線が痛いような気がした。


それから私が温泉に戻ってきたのは1時間くらいした後だった。5人はもういなかった。

やはり逆上せていたらしい。

裸で恥ずかしさも相まって体温が急上昇したんだろう。

自分の気持ちの小ささに情けなくなった。

これじゃあ、夫を持つこと自体難しいんじゃないだろうか。

そんなことをふと思ってしまった。


(私がこの世界から居なくなる方法とかあるのかな…)


あり得ないことまで考え始めた。決して死を選ぶとかそういう意味ではない。

元の世界に戻るなんてそんなこと、神様だって無理なことなのに。

頭の中をたくさんの事で占めながら大部屋に向かうと、大きなテーブルにもう食事が準備されていた。

皆が談笑して何も手に付けずにいる。

もしかして、待っていてくれたのだろうか。

私なんかの為に、待っていてくれたのだろうか。


「あ、紅葉さん。きたきた。一緒に食べましょう!」


西谷くんが元気よくそう言ってきた。

私は守護者の皆の気遣いが嬉しく思えた。

今だけは余計なことを考えるのはよそう。

頭の中で占めていたことは外に追いやって、談笑に加わることにした。

皆との食事はとても楽しく、またとても美味しいものだった。


こんな時がいつまでも続けばいいのに。


祈るようにそう願った。


就寝前。

私は飲み物が欲しくなり大部屋を出て1人、自動販売機に向かった。

寝る前なので冷たい水でいいかと決めて小銭を出そうとする。

すると、


「水が良いんですか?私が出しますよ。」


南雲さんが後ろに居た。

気配を全く感じなかったのでひどく驚いてしまった。

守護者のメンバーは皆、気配を消すのが上手いのだろうか。


「それくらいお金ありますよ。」

「私が出したいんです。…はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」


有り難く水を受け取ろうとすると、いきなり抱きしめられた。


「私が助けたかった。」

「南雲、さん?」

「貴女の肌に触れてみたかった。」

「…そう、言われましても。」


先ほど、東野くんが助けてくれたことを言っているのだろう。

だから背中の視線が痛かったのかと今更ながら答えを得た。

就寝前なので少ししたら今日は離してくれた。

キスをされずに済んだので内心、ほっとしたのはここだけの話である。


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