第29話 まさかの展開

「良かった…半月も寝ていたのですよ。」


どおりで身体中が痛いわけだ。

役目が終えた私にこの態度をとってくれるということは、期待して良いのだろうか。

いいや。待て私。

ここはゲームの世界なんだ。何をされたとしてもおかしくはない。

今、態度が良くても出ていけと言われる可能性を無視してはいけない。

私は期待することをやめた。


「声が出ますか?」


首をどうにか横に振る。

悲しそうな目をされた。

霊力を大量に消費してしまった代償なのだから別に病気というわけじゃない。

そんな表情をして欲しくはなかった。

でも声が出ない私にそれを伝える手段はない。

霊力も消費しているため、式神を使うことすらできない。

無力な自分を殴りたくなった。


「怨鬼神は消滅しました。貴女は鎮めたのではなく、消滅させたのです。」


え?そうなるの?

単に私は彼と会話を交わしただけなのだが。

消滅させたという実感はない。

別に大したことをしたわけではない。

神を説得しただけだ。

それはとても大層なことかもしれないけど、私にとってはなんてことのないことだ。


「よくやってくれました。もう神代の巫女が鎮めるという役目を果たす必要はなくなった。ありがとうございます。」


頭を下げて京子さんは言った。

そんなことをしなくて良いと言葉に出したいが、声が出ない。

どうしようかと思ったけど、何もできない。

私は口をひたすらパクパクさせて京子さんに頭を上げるように言った。


「京子、此奴は頭を上げて欲しいと言っておるぞ。」


あ!鳥の神様!来てくれてたんだ!

緋色の鳥の神様が私の言葉を代弁してくれた。

格の違う神様はどうやら人の心も読めるらしい。


「どこまでも良い人ですね。それだけのことを貴女はしたというのに。…お疲れでしょう。ゆっくり休んでください。何か、食べれるようでしたら持ってきますよ。」

「ふむ。食欲はまだないみたいだな。」

「分かりました。どうか静養なさってください。」


ありがとうございます、鳥の神様。

そう思うと、紅い瞳が覗き込んできた。


「儂からも礼を言わねばならぬからな。よくぞあそこまでやった。人の身としては大したものよ。」


そうなのかな。

この神様が言うのだから頑張ったのかもしれない。

そんなつもり、全くないんだけど。

いつの間にか霊力が空っぽになっていただけだし。


「少しは自信を持たんか。神代の巫女よ。」


そう少し呆れたような、嬉しいような、そんな声で神様は言った。


「紅葉さん!」


聞き慣れた声がした。

南雲さんだ。西谷くんの声も続けてした。

神様によると、目を覚ますまで毎日この屋敷に通いつめていたみたいだ。

京子さんに迷惑をかけてしまった…しかもこの2人かぁ。申し訳ない。


「良かった。良かった。もう2度とその瞳を見れないと思っていました。」

「本当ですよ、紅葉さん。俺たち守護者全員死ぬほど心配したんですから。」


あれ?この2人だけでなく、全員が心配してくれてたの?

それはありがたい話だなぁ。

でもどうしてだろう。体調がよくないからかな。

冷や汗が流れる。嫌な予感がする。


「半月の間に分かったことなんですけどね。私たち以外の守護者全員も貴女のことを好いているんですよ。」


な、なんだってーー!!

ゲーム終わったんじゃないの!?

何その急展開!?


私は気絶したくなった。




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