第28話 終わりの始まり
──声が、聞こえた。
『ありがとう』
──声が、聞こえた。
『もう離れることはない』
──涙声だった。
私は、どうしたいだったっけ…?
虚な意識のまま私は記憶にあったような女性の涙を拭っている。
「泣かないでください。その為に、私は舞ったのです。」
女性は驚いた顔をした後、自分でも涙を拭い笑顔を見せた。
私はその女性の笑顔を見て何故か心底ホッとした。
どうしてなのか、分からないけど何か大きなことを成し遂げた気がする。
女性は私を抱きしめた。その温もりが、とても心地よかった。
「貴女の涙を止めてあげられて、良かった。」
私は何の女性なのか記憶にさっぱりのくせにそんな言葉を吐いている。
女性ともやっとしていて見えないけど恐らく傍に男性が居て、その場から満足したかのように消えた。
願いが叶って良かったと、私はどうしてかそんなことを思っていた。
目を覚ました。
私は、自室の布団に寝かされていた。
身体中がとても痛い。
先程の夢みたいなのはなんだったのだろうと思考してみると、あれは初代神代の巫女と怨鬼神だと気がついた。
頭がぼんやりしている。
夢の中でもそうだったから、あの女性が何者なのか、男性も何者なのか気がつくことができなかったのだろう。
分からないくせに会話をしていたのだからどうかしている。
夢だからこそできたことなんだろうな、とぼんやりした頭で冷静に分析していた。
(何はともあれ、私の役割は終わったわけだ…)
怨鬼神を鎮めた私にもう役割は残っていないだろう。
恐らく価値すらないんじゃないだろうか。
所詮は余所者。
だから、結末はきっと碌なものじゃない。
今は霊力が回復していないからまだ動けないけど、回復したらきっと。
きっと、追い出されるに違いない。
だってもう、ゲームのエンディングを迎えているのだから。
ハッピーエンドを迎えさせただけ、私にしては上出来じゃないだろうか。
自分を褒めてみた。
そう思いながら私は再び目を閉じることにした。
頭がまだぼんやりしている。
回復に努めることにした。
次に目を覚ました時には、オレンジ色の日差しが窓から差し込んでいた。
夕方まで再び寝ていたみたいだ。
起きれるかどうか試したが、まだ起きることは難しい。
それほどまで霊力を消費していた事実に少し驚いた。
ラスボスを倒したのと同じことなのだから、これも仕方のないことか。
自分をそう納得させて、起きることは諦めた。
(声を出すことも少し厳しいか。参ったなぁ…私、どれくらい寝ていたんだろう)
京子さんと話くらいしたかったのだが、声すら出すことが厳しい。
いつだかに、神々を鎮める為に舞った記憶を思い出す。
あの頃はまだ、主人公が居て色々と大変だったなぁと懐かしんだ。
ほんの少し前のことなのに、もうずっと前の記憶のように思えてしまう。
あの主人公は元気にしているだろうか。
この世界が救われた今、多分生きていてくれているとは思うんだけど…。
色々とあの子、やらかしてしまったからなぁ。どうだろうなぁ。
自分の心配より他人の心配をして現実逃避していた。
「紅葉さん!?起きたのですね!」
京子さんの涙声が聞こえた。
なんとか首を聞こえた方角に向けると、どうにか笑顔を作った。
さて、これからどうなることやら。
先は不安だけど、なるようになれ。
私は半ば開き直った。
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