第27話 巫女の想い

 無事に舞を舞おえることが出来た。

祭りは大盛況で終わりを迎えた。拍手をたくさん貰えたから、ホッと胸を撫で下ろした。

 あとは、私と守護者との戦いだ。

私の舞を見ていたのか、守護者の皆は口々に褒め称えてくれる。

これからが本番だというのに、ちょっと緊張感が欠けているような気もするけどきっとそれは違う。

 私を安心させる為にきっと話かけてくれるのだ。

そのことがとても有難いと思うし、嬉しくもあった。


短い間だったけれど、この人たちと会えて良かったと思うことができるから。


 このゲームの物語の終盤がどうなるかなんてクリアしていない私には想像もつかない。

けれど現実とは残酷なものだから。

終わりを迎えた途端、好感度設定もなくなるかもしれない。

 物語は終わって私はこの村から追い出されるかもしれない。

所詮は余所者だ。

いくつもの最悪のパターンを想像しておく。

 覚悟を決めておく。


怨鬼神から生き延びたとしても、人生は続いていくのだから。


守護者の苗字は東西南北で付けられている。

巫女から見てその方角に守護者が居ることで守護者の力が存分に発揮することができ、また私も存分に力を発揮することができるのだ。

北山くんが守護者の権利を失っているから少々不安なところはあるけど、そこは私の霊力で補うしかない。


──怨念の塊が、見えた。


 巨大な黒い人の形をしていた。顔などは黒くて見えない。

これがもう千年以上昔に人間に喰われて妻と共に過ごせなかった恨みの塊。

凄まじいものだ。

 私は恐怖で震えてしまいそうになる。

でも、私を中心として守護者が配置について既に私のことを守って動いてくれているのが見えなくとも感じとることができる。

怯えている場合じゃない。

 私も、私自身と戦わなければならない。


懐に忍ばせていた針を人差し指に突き刺す。

血が、少しだけど垂れ始めた。

それを神楽鈴に付着させる。


──声が、聞こえた。


『共に舞いましょう』


 それはいつか夢で聞こえたあの悲しい声と同じだと気がつくのに数秒かかった。

初代神代の巫女が、私の隣に居る。

とても美しい姿をした巫女だった。

 乳白色の肌色に、薔薇色の唇。

黒曜石のような黒く大きな瞳と美しく纏められた長い垂髪。

手が差し伸べられて、私は握る。


そうして巨大な黒い人の形をした、夫となるはずだった神に向けて舞を祝詞と共に舞始めた。

守護者の人たちの気配が感じとれた。

安心した。


──恨みが、聞こえる。


『許さぬ』


──恨みが、聞こえる。


『許さぬ』


──声を、届ける。


『ここに居ります』


──声を、届ける。


『ここに居るのですよ、あなた』


巫女の声がする。

私は特別に何かしているわけではない。

どうしてこんなことが起こっているのか、理解が追いつかない。

そんなことを考えているのが分かったのか、巫女は言う。


『貴女の想いが、私に届いたのです』


祝詞を唱えながらその声に耳を傾ける。


『あの村人に見せた舞は、夫も好きな舞だったのです。貴女は巫女の中でも異質。あの舞に想いを込めてくれた。だから私に声が届いたのです。』


そうか。と納得する。

確かに私はこの舞とは別に、村人に見せる舞にも想いをしっかり込めて舞っていた。

その想いが、届いたのか。

ならば、この状況にも納得がいく。私が望んだようにこの2人は会話することが出来るかもしれない。


長い祝詞はやがて、黒い人の形をした神に届いたのが感覚で分かった。

それは神代の巫女故なのか分からないけれど、これはチャンスだ。

私は祝詞を唱え終えた後に叫ぶ。


「ここに、貴方が会いたいと思っている人が居ますよ!!私のすぐ隣に!!」


──許さぬ。


「許さなくたって良い!でも、恨んでばかりで奥さんのことを気がつかないのは夫としてどうかと思います!」


──お主は誰だ。


「神代の巫女の継承者です!早く奥さんと再会して!私との会話の時間が勿体無い!」


──そうか。そうだったのか…。


急に声が優しくなったかと思うと、初代神代の巫女の隣にこれまた超絶イケメンが居た。

語彙力は、霊力を大量に消耗したため何処かに消えてしまっている。

とにかく美男がいるということだけわかってほしい。

そのイケメンが怨鬼神と気がつくまで些か時間がかかった。


あんな叫びでも、私の想いは届いたらしい。


怨念の気配はすっかり消えていた。


『お主は余所者なのだな。なのに、この世界を救ったのか。』

「何かを救うのに、そう理由は要らないでしょう。」

『お主だったからこそ、私は妻のことが気がつけた。妻と会えた。』


そのイケメンは、涙を流していた。

初代の巫女を抱きしめながら私に言う。


『こんな言葉しか言えぬが──ありがとう。お主に会えて、良かった』


その言葉を最後に、私の意識は途絶えた。

霊力、空っぽである。



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