第4話 代役
「それって、お孫様がすることじゃないんですか?何故私が?」
彼女、霊力あんまりないと思うけど。
それでも主人公がやることを取り上げたくはない。
理由を尋ねた。
「貴女も分かるはず。あの子には霊力がほぼありません。お札を使っても、何かをする事はできないでしょう。」
お札にも力が込められている。
そこに自分の霊力を流し込めば何かしらの現象を引き起こす事が出来るのが主人公のはずだ。
そんなに彼女には霊力がないという事なのだろうか。
私は視線を京子さんから赤い鳥の神様に移した。
「それって本当ですか。何の神様が存じ上げませんけど。」
「本当だ。あの娘は札すら扱うことができぬ。要は使えぬ娘なのだ。なにしろ儂の姿が見えていないのだから。」
「少し前までは霊力があったんですけどね…突然、なくなったのです。性格も変わったように思えます。」
「……。」
言葉を紡ぐことが出来なかった。
理由なら明白だ。
あの神様が言っていた通り、本物の神代もみじではないから。
魂と霊力の関係は知らない。
しかし、本人ではないという事はとても重要なことなのだろう。
私は目を伏せた。だって、何も言えない。
言った所で、何も変わる事はない。
「困り果てていました。あの子以上の霊力がある巫女はそうそう居ない。そんな時、貴女がここに来た。八百万の神様が導いて下さったのだと強く思いました。」
「…そうだったんですね。」
「神代の巫女には代々、伊吹童子を祀りながらも怨鬼神から世界を守る事も使命となっています。それが出来るのはあの子ではなく貴女しかいません。」
「そのことはもみじちゃんは知っているのでしょうか。」
「まだ教えていません。今日、帰ってきたら教えるつもりです。」
「…わかりました。私にお手伝い出来る事でしたらします。ただし、もみじちゃんが知ってからでもよろしいですか。」
「もちろんです。あの子のことまで気遣って下さってありがとうございます。」
頭を下げられた。慌てて頭を上げるように言った。
腹を括れ、私。
主人公に霊力が無くて私にあるのなら私しか出来ないんだ。
ずっと要らなかった霊感という能力だけど。
世界を救える能力があるというのなら喜んで使おう。
今、そうしなきゃ絶対に後悔する。
そんな後悔する生き方だけはしたくはない。そう強く思った。
今日の所は神社の清掃が主にとなった。
指示されていた所をテキパキとこなしていく。
自分の力で綺麗になっていく様は見ていて気持ちがいいものだ。
お昼には昼食を軽く摂り、再び神社の清掃へ。
全ての清掃が終わったのは夕日が落ちる頃だった。
もみじちゃんが学校から帰ってくるのが神社内から見えた。
「お帰りなさい、もみじちゃん。」
「…ただいま帰りました。」
声色が何処か冷たいように思えた。
視線もやはり痛いものを感じる。それら全てを私は受け流した。
どう頑張っても彼女は本物にはなれない。
偽物が本物に敵わないことなんてないと思うけど、この場合は別だ。
私たちの場合は適材適所という言葉が妥当だろう。
もみじちゃんが屋敷に入っていくのを見届けると、私も屋敷に入る為に片付けをした。
「お帰りなさい、もみじ。貴女に話があるの、座って。紅葉さんもそこに座って。」
「はい、京子さん。」
「……。」
彼女は言われた通りに座る。
私も同様に座った。ずっと立ちっぱなしだったので足が疲れていることに気がつく。
長時間の正座は難しいかもしれない、だなんてこれからの話題にそぐわないことを考えた。
「私がもみじを都会から転校させた理由は覚えていますね?」
「神代の巫女として怨鬼神から世界を守る為でしょ。」
「でも今の貴女にその勤めは果たせますか?」
「……そ、れは。」
「難しいでしょう。何せ霊力…いえ、そもそも『霊感』が貴女にはほぼない。けれど、紅葉さんには以前もみじがあった以上の霊力がある。神代の巫女は彼女に受け継いでもらうことを頼みました。」
「……え?そ、そんなの無理に決まってるじゃない!ポッと出の訳わかんない人だよ!?」
もう少し、言い方というものがあると思うんだけど…確かにポッと出のキャラですよ?
所詮、モブキャラの顔ですとも。
でもその言い方はいかがなものかと思うなぁ。
京子さんも彼女のその発言には難しい顔をしていた。
「失礼な言い方をするのはやめなさい。」
「事実じゃない!」
「そうだとしてもです。これは当主としての決定事項です。貴女の役目を、紅葉さんに果たしてもらいます。」
神代もみじというキャラクターは元々、都会に住んでいた高校生だった。
だが、祖母である京子から神代の巫女として役目を果たすように転校すれと突然言われてしまうのだ。
強力な霊感を元々持っていた彼女は世界の異変を感じとっていた為に仕方なく従うことに。
両親の反対を振り切って伊吹村に行くことにする。
そして様々な年齢層の巫女を代々守る守護者達との交流を深め、それはやがてルートにより恋愛に発展していく。
簡単に言うと主人公はこのようなストーリーを辿るはずなのだが…。
何処で歯車が狂ってしまったのか。
彼女には霊感自体がなくなってしまったのだから、守護者との交流も無意味なものになるだろう。
このお話、世界は、どう変わっていくのだろう。
その言葉は喉元まで出かかっていたけど、唇から発せられる事はなかった。
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