第5話 1人目の守護者
その日の夜、私はもみじちゃんに呼び出された。
場所は神社の境内。
話の内容は大体想像がつくけど、もし想像通りなら。
彼女はお馬鹿さんとしか言いようがない。
「話とは何です?」
「あんた、転移者でしょ。」
「ええ。そうですよ、それが何か。」
「私の邪魔すんじゃないわよ!!!私は主人公なのよ!?みんなから愛されるの!」
「そうだね。でも、君に霊力はない。主人公の役割は出来ない。」
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
「やっぱりここの世界の常識を忘れているみたいだね。」
「は?」
強い風が突然吹いた。
目の前にその風を起こした神様が私には見える。
風神という神様だろう。
けれど彼女には見えない。
私たちの間にだけ吹いた謎の風に、もみじちゃんは顔が真っ青になった。
まだ私が言った意味がわかっていないらしい。
「ここは
努めて冷静に私はそう言った。
その言葉でゲーム内の設定を思い出したらしく、また顔が真っ青になった。
この子、その設定忘れてよく生きてたな…。1番忘れちゃいけない設定でしょ。
八百万の信仰がなくとも、隠れて何かコソコソとしたり悪口を言ったりするのは褒められた行為ではない。
1番基本的なことを彼女は主人公に転生したという嬉しさのあまりに忘れていたようだ。
中身の人間ってもしかして私よりずっと年下だろうか。
そんな印象を持った。
「これに懲りたら私に何かしようと企むんじゃないよ。貴女に、神様は見えていないのだから。」
「……。」
事実は時として残酷になる。
それを伝えるべき時と伝えない方がいい時もあるが、今の場合は前者だ。
私は心を鬼にしてそう言った。
でもね。
本当なら霊感なんてもの、ない方が良いんだよ。
特に幽霊の言葉程切ないものはない。
彼らはもう死んでしまった人間。終わりを迎えた人間。
私は頑張って彼らの声を無視し続けたけど、それでも聞こえてきた。
『もう一度だけ会いたい。』
その、決して叶わない願いを。
私は翌日から修行がメインとなった。
お手伝いさんは足りているし、神社の清掃も片手間にやっておいてくれたら良いとのこと。
せっかくお手伝いさんと仲良くなったのにな…と思ったが会えない訳ではないのだ。
あまり悲観的な考えはしないようにすることにした。
「この札に霊力を込めてみてください。イメージはコップに水を注ぐように。」
「やってみます。」
目を閉じてイメージを膨らませる。
自分の中のある何かが札に流れていくのが身体で感じることができた。
だが次の瞬間。
「…目を開けたらお札が粉々になって消えているのですが。」
「想像以上ですね。紅葉さん、霊力が尋常ではありません。」
「どういうことですか?」
「霊力が強すぎるんです。こうなってしまうと、祝詞や印を覚えて貰った方が良いでしょう。」
修行方針が変わってしまった。
私は本物の主人公よりも霊力があるらしい。
元から霊感があるからだとしか原因が考えられない。
主人公だって充分過ぎるくらいチート能力だったのにそれを超えるだなんて。
モブキャラにしてはちょっとなぁ。盛りすぎなような気がする。
それでも仕方がないことだと小さくため息をついた。
修行は夕方まで続いた。
神社内の清掃も軽くしたし、修行だけでなく仕事も終わらせた。
そろそろもみじちゃんが帰ってくる頃か。
そう夕日を眺めていると、遠くからこんな声がした。
「お前!もみじをいじめているらしいな!!」
何だろう。この漫画みたいなテンプレ。
男の子の声だった。この声、聞き覚えがある。
赤い鳥の神様が私の肩に乗る。
「あやつ、面倒事を引き起こしてくれたぞ。」
「何となく察しましたよ。」
もみじちゃんに直接忠告したはずなんだけどな。
あまり意味が伝わらなかったみたいだ。
けれど彼女の言うことを鵜呑みにしている彼も悪い。
彼──
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