第3話 新たなる世界で

 早速お手伝いさんがやるような家事などを積極的にこなし、与えてもらった部屋で就寝した。

食事はこの世界に来る前にもう済ませていたので必要なかった。

 明日から元の世界よりも早起きの日々が始まる。

正直、心身共に疲れ切っていたのですぐに深い眠りにつく事ができた。




──子供の頃の、夢を見た。


私が初めて幽霊を見た時の話。

 母に、空を指をさして「あそこに浮いている女の子がいる!」と元気よく言った。

その時の母の表情を今でも忘れたことはない。

 信じたくないという表情をしていた。

しかし、母にもその女の子は見えているのが子供ながらでも分かったのだ。

 同じ方向を見ていたのだから。

そこには何もない。ただの空だ。普通の人間が見れば、の話だが。

 だからこそ元気よく私はそう言ったのだ。

同じものが見えているよ、と。

 母は表情を厳しいものに変えて私にこう言った。


「決してその見えていることを誰にも話してはいけないよ。」


 その当時。どうして言ってはいけないのか、理解できなかった。

 でも母の表情を見て、言うことを聞かなければいけないことなんだということだけを理解し忠実に守り続けた。

幽霊がいようが、あやかしが居ようが、何かを感じ取ろうが、無視を続けた。

 お陰様で痛いことを言っているような女に成長することはなかった。

ごく普通の女の子として成長をした。

 母には感謝している。

成人してから知ったことだけれど、母の家系は代々霊感がとても強いらしい。

 私に霊感があるのはその血をしっかり受け継いでしまったということが理由だ。





 気がつくと、畳の部屋の布団の中で私は寝ていた。

どうやら子供の頃の夢を見ていたらしい。

 深く眠ったように思えたが、夢を覚えているということはそうでもないのかも。

疲れは取れているので問題はない。

 時計を見れば朝の5時、10分前。

目覚ましが鳴る前に起きることができた。

 今日からこれが当たり前の時間になる。私は目覚まし時計をリセットして布団を片付けた。

 京子さんから貰った巫女服に袖を通す。

元の世界では、社会人になる前にバイトで巫女さんをしていたことがあるのだ。

 なので巫女服を着こなすことに支障はなかった。

身なりをきちんと整えたことを鏡で確認してから部屋を出る。


「おはようございます。今日からよろしくお願いします。」

「おはよう、紅葉さん。こちらこそよろしくお願いしますね。」


 お手伝いさん達に朝の挨拶をする。

彼女らもちょうど身支度を整えて自分の部屋から出てきた頃のようだ。

 厨房までの道のりを他愛のない話で盛り上がった。

1人暮らしで料理もそこそこ作っていたので調理は問題なくすることができた。

家主ある京子さん、孫のもみじちゃん、それから自分たちの分を作った。

 私は神社の仕事も兼任するため、お手伝いさん達とは朝食で一度お別れだ。

仕事の内容を家主の京子さんから教わった。

主に神社内の掃除が仕事だと言われた。

それなら元の世界でもやったことがあるので問題なく出来るだろう。

 内容を聞いている間、学校へ行く支度をしているもみじちゃんの視線がとても痛かった。

早く学校に行ってくれと願うしかなかった。


 早速仕事をこなす為に神社に向かうと、昨日話かけてきた赤い鳥が居た。

肩に乗っていた時から思っていたけど小さな鳥だ。

 この鳥の独特な気配は一体何なのだろう。

それが分からずにいた。


「おはよう、紅葉。今日からここで巫女をするのか。」

「おはようございます。巫女をするというか、掃除をします。仕事着みたいなもんですよ。」

「京子はそうは思ってはおらんようだが?」

「何ですって?」

「やはりその神様が見えているのですね、紅葉さん。」


 箒を持っていると後ろから京子さんの声がした。

いつの間に!

その神様ってこの赤い鳥のこと!?

 神様ってなんの神様!?

そして私が見える人間ってなんでバレたの…私、一言も言ってないんだけど。


「貴女には神代の巫女としての修行もしてもらいます。これも仕事と思って頂いて結構です。」


 それって主人公がやることだったはず。ストーリーで見たから間違いない。

そこまではクリアしているのだ。

 何でモブキャラの私がやることになっているわけ?

 先の展開がまるで読めない…。せめてもう少しクリアしている所で転移とかなかったのかな。

私は頭を抱えたくなった。




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