第2話 主人公の真実
1番確認したいことは終えたけど、何も尋ねないのは人としておかしい。
とりあえず伊吹村なのかどうかを尋ねてみることにした。
「そうです。ここは伊吹童子を古くから祀わる伊吹村。バスで来られたんじゃないんですか?」
「生憎と、違いまして…。」
「ではどうやってここに?」
「どう説明するべきか迷う方法で来た、としか言いようがありません。実は、金銭も何も持っていないので困っているのです。助けて貰えないでしょうか。」
手を合わせて懇願した。
まずは衣食住を提供してくれる場所を見つけないと、生きていけない。
サバイバル系のゲームはしたことはないけどそれくらいは常識としてわかる。
常識じゃないことが現在進行形で起こってしまっているけれど。
「祖母に相談してきます。」
「お願いします。」
長い髪を靡かせて、彼女は神社の奥にある屋敷の方まで走って行った。
私はポツンと1人取り残される。
暇だなと思っていると声をかけられた。
「お前、余所者か。」
肩に小さな赤い鳥が一匹止まった。
背筋がゾワッとする。この鳥、ただの鳥じゃない。
あやかし?違う。もっと高次元の何か…。
とにかく普通の気配とは違うのが感じ取れた。
「そうですよ。困り果てています。」
「余所者のくせにとんでもない霊力を秘めておるな。」
「…は?」
やっぱり霊感が元々あるからそれが霊力として変換されているのだろうか。
私は立場的にモブキャラだと思うんだけど。
疑問だらけだ。
「お主、世界の外から来た癖に自覚がないのか。」
「そこまで分かっているなら私が今、戸惑っているのも分かりませんかね。」
「まぁ、良い。あの娘と違って本物が来たようだからな。」
「…本物?」
「あの娘に違和感は覚えなかったか?」
「……なかったかと言えば嘘になります。」
主人公である神代もみじは霊力がとんでもないという設定がある。
簡単に言えばチート能力という奴だ。
しかし、私が見た神代もみじにはその霊力が全くと言って良いほど感じ取れなかった。
私はそういうのも分かる霊感の持ち主である。
どうしてそんなことが起こってしまっているのか、疑問だった。
だが、この鳥が言う『本物』という発言で何となく察してしまった。
「あの子、中身は私と同じ世界の人間ですか。」
「そうだ。察しが良いの。」
「それくらいしか取り柄がないものでして。」
あの神代もみじの中身の人間は私とは違って転移ではなく、転生してしまった人間だ。
恐らく、元の世界では亡くなっている。
それならば霊力がない理由にも頷ける。
中身が本物ではないのなら霊力がなくて当然だろう。
では主人公の魂は何処に行ってしまったのだろうか。
完全にないものとされているのだろうか。
そうなるとかなりこの世界、更にピンチになると思うのだが。
だって主人公の力がこの世界を救うのだ。
その主人公に力がないとするならば、一体誰が救うというのだろう。
「あの子に力が無いとするなら、誰がこの世界を守るんです。」
「其方が守れば良い。」
「はい?」
私、そのまま転移してしまったただのモブキャラに過ぎないんだけど。
そんなこと出来るわけないでしょ。
それは主要キャラの役目であって、私に押し付けるのはやめてほしい。
所詮、私は余所者に過ぎないのだから。
そう考えていると、神代もみじがこちらへ走ってきた。
どうやら祖母に話をつけてきたらしい。
「祖母が貴女にお話しがあると。どうぞ屋敷へ、ご案内します。」
「ありがとうございます。」
何とか衣食住を確保しなければ。
頬を叩いて気合を入れ直した。
屋敷は時代劇に出てくるような武家屋敷を思わせた。
とても広い。
向かう途中、少しだけ見えた中庭にも紅葉が栄えていた。
和風ゲームの世界だけあって、作り込んでいるなぁと何処か他人事のように思った。
部屋に着いたのか神代もみじは立ち止まる。
「おばあちゃん、連れてきたよ。」
「お通しして。」
「はい。」
襖が開けられる。
神代もみじに入るように促され、部屋に入った。
彼女の祖母、京子である。
一応、説明書に登場人物として簡単なプロフィールが書いてあったので知識としてはこの女性を知っている。
「初めまして、小鳥遊紅葉と申します。この度は、お話しの機会を与えて下さり誠に感謝しております。」
「…そう堅苦しくなさらないで。簡単な話はもみじから聞きました。さぁ、お座りなって。」
「ありがとうございます。」
私は神代もみじの向かいに座った。
彼女は京子さんの隣に既に座っている。
焦茶色の机には緑茶が3人分置かれていた。
「早速ですが、この神社と屋敷の手伝いをして頂けるのなら喜んで衣食住を提供しましょう。」
「え?おばあちゃん!?」
「それだけで良いのですか?ありがとうございます!」
頭を下げた。
どうやら第一の死亡フラグはへし折れたようだ。
衣食住があるかどうかだけで生存率は変化するだろう。
でも気になるのは神代もみじの反応。
どうやらここに住むことを許可しないものと考えていたようだ。
頭を上げると私を睨みつけているのが見えた。
冷え冷えとした瞳。
美人だからこそ凄みというものがある。
だからって私も引き下がるわけにはいかない。
死にたくないからだ。
私はその瞳を真摯に受け止めた。
「何か、私が居ることで不都合なことでもあるのでしょうか。お孫様の反応があまり良くないように見えるのですが。」
「とんでもない。何も不都合なことなどありません。むしろ好都合です。」
「それは何よりです。」
「……。」
私は美人の部類には入らないだろうが、営業スマイルなら負けない自信がある。
とびきりの笑顔でそう言うと、神代もみじは黙った。
(ま、本物じゃないってところに私が入り込んできたのが良くないんだろうな。)
肩に未だ乗っているこの不思議な鳥さえ、彼女は見えていないらしいから。
これからどうなることやら。
少しばかりの安心と大きな不安が混じり合った複雑な気持ちになった。
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