第1話 残酷な現実

『助けて。』


 その声が聞こえ、私は光に包まれた。

眩しいにも程がある。目がチカチカした。

 辺りを見回してみるとゲーム画面越しに見ていた風景。

伊吹村にそっくりだ。

 季節は秋で、紅葉が栄えている。赤や黄色に染まっていてとても綺麗だ。

…紅葉を眺めるのはさておき。


 え?まさか?え?ちょっと待って。今、混乱中。

そのくせ嫌な気配がする。

 私は小さい頃から霊感があった。はっきり言って、日常生活には邪魔でしかないものだ。

 後ろを振り向いてみると数m先に鬼のような形相のあやかしみたいなのが居た。

 霊感あるからわかる。あれ、人間じゃない。本物のあやかしだ。そして、私を狙ってる。


「うっそでしょ!!ゲームでしか見たことないっつーの!!」


 走った。走った。走った。

でも気配がまるで薄まらない。

 ていうか、私まだこの状況を理解しきれてないんだけど!

どういうことなの?

 ゲームしてたら画面が止まって、そして変な声が聞こえてきて。

気がついたら光に包まれてここに来ていた。


「まさかだけど、ここ神代神社の巫女の世界じゃないよね…。」


 走りながらも呟く。

 本当はそんな余裕、これっぽっちもないけど追われている恐怖よりも今居るこの世界の状況の方が恐怖だった。

 だってその考えが本当なら私は今、世界の危機に瀕してるゲーム世界にいるということだ。

もし、主要キャラに転生でもしていたらまだ生存率は高い。

 しかし、このゲームはモブキャラには容赦ない。簡単に言うと、あっさり死ぬ。

何故ならこの世界において霊力というものが絶対だからだ。

 モブキャラはそれを持っていないに等しい。だからあっさり死ぬ。

つまり、そのままの姿でこの世界に来てしまった私はモブキャラということで。

 死亡フラグが常に隣に立っている、ということなのだ。


「あー!!!もうしつこい!!!『消えろ!!!』」


 消えろに思い切り想いを込めて叫んでみると、鬼っぽいあやかしの気配は消えた。

……え?消えた?

 振り返ってみるが、居ない。確かに消えている。

もしかして、私。何かしてしまったのだろうか。

 ここが私の考え通りの世界なら、『言霊』という能力があったはずだ。

言霊とは言葉にしたことは実現する能力のことを指す。

 そしてその言霊を使用するには霊力が必要となる。

…私が元々霊感があるから霊力もある設定に変わってる?

 そんな推測を自分なりに立ててみた。

それが本当ならあやかしが消えた理由も納得がいく。

 私が言霊を使って倒したということなのだろう。


「色々と、考えたいことがあるし…。」


ここが想像通りの世界なら今の私は住む家がない。

よって何処かに住ませてもらう必要がある。


「神代神社に行こう。」


幸い、ここが伊吹村ならマップは頭の中に入っている。

状況を把握するために私は主人公が住んでいる神代神社に行くことに決めた。




 先程走ったので体力が大分奪われていた。

歩いてゆっくり進むことにする。

 今の気分はあまり良いものとは呼べない。何せ違う世界かもしれないのだ。

戸惑いという気持ちが多い。

 そんな気持ちの中でも空は秋だからか天高くうろこ雲が漂っている。

道を歩いていれば落葉の雨が降り注いでいた。

 しばらくマップ通りに歩いていると、見覚えのある神社が見えてきた。


(ここだ。鳥居には…『神代神社』って書いてある。やっぱり…。)


 もう1つ、神代神社の巫女の世界には特徴がある。

八百万の神の考えが根強く残っているというものだ。

 私はここまでの道のりで沢山の神らしきものを見てきた。

元にいた世界ではここまで神様が見えることはなかった。

 つまり私が今居る世界はほぼ、神代神社の巫女のゲームの世界だと考えて間違いないだろう。

確信が欲しい私は鳥居をくぐり、巫女服を着ている人に声をかけた。


「すみません。少々、お尋ねしたいことがあるのですが。」

「はい?」


 巫女服の人は振り返る。絶世の美少女がそこには居た。

 黒曜石のように磨かれた腰まである美しい髪を後ろで1つに束ね、艶かやにルージュが引かれた唇。

少々黄色味が入っている東洋人独特の白い肌。大きな黒い瞳が私の姿を写し出していた。

 この少女こそ主人公、神代もみじ。


(あー…尋ねるまでもなく、答えが出たかもしれない。)


ここ。神代神社の巫女の世界だわ。

元の世界に天地を創造した神様が存在するのなら私は一発殴りに行きたいと強く思った。



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