第13話 初仕事

 その日のうちに本格的私は巫女としての役割を果たすことになった。

もみじちゃん達がどうなったのかは知らない。

あまり詮索しない方が良いこともあるだろう。

 私は主に村中を巡って、嫌な気配を祓うことを中心として活動することになった。

決まった時間には神社に居るようにと京子さんから言われた。

 誰かが取り憑かれてしまったといった話も多いからだ。


「では行ってきます、京子さん。」

「はい。行ってきなさいませ。どうか修行の成果が出るように。」


私は巫女服を着たまま神楽鈴を持って、神社を後にした。

肩の下まである髪は後ろで結んでいる。

コンクリートではない道を草履で歩いた。


「気配が少し多すぎるな。気配を辿るのちょっと面倒そうだ…。」


怨鬼神が復活するまであと1ヶ月といったところ。

不穏な気配だらけで、気配を辿るという行為そのものが難しい。


「お困りのようだな。手伝ってやろうか。」


例によって赤い鳥の神様が私に向けてそう言った。

私は素直に「お願いします」とお願いをする。

するとその言葉に驚いたのか目を見開いた。

何?その反応。私は力を誇示したりする人間ではないんだけど。


「其方は素直だな。」

「初めて言われましたよ、そんなこと。」


 今度はこちらが目を見開く番であった。

素直な人間だなんて言われたことは一度もない。

 母から言われたことは忠実に守り続けていた人間だけど、素直さとはまた別の話だろう。

そんなことを思っていると、強い瘴気を感じた。


小さな湖からだった。


 秋の彩りは枯れ落ちて、その枯葉が水面に浮かんでいる。

普通の霊がその瘴気に引き寄せられるように動いているのが見えた。

まるで磁石が引き寄せているかのような風景だった。

 このままでは悪霊へと変わり、人に取り憑くまでそう時間は掛からないだろう。

私は神楽鈴を出した。


「祓いたまえ、清めたまえ。」


 教わった通りの祝詞と舞で浄化を試みる。

祓祝詞と呼ばれる祝詞で私はそれを唱えながら待った。


シャン、シャン、と神楽鈴が鳴り響く。


 どうやらこのゲームには必殺技みたいなものはないみたいだ。

巫女が舞い、浄化をする。

 とても単純な攻撃かつ強力なものだ。

神様に捧ぐのが祝詞と呼ばれるものなのだから。

 舞を終えると、湖は浄化されていた。

霊も未練を残すことなく成仏したようだ。


(良かった。悪霊にならずに済んだ。)


修行の成果は確かに出ているみたいで、結果が出たことを喜ばしく思った。


「天女のようだ、と聞いてはいましたが本当にそのように見えますね。」


 南雲さんが少し遠くから私に向かって来ていた。

舞に集中していたので気配を感じることは出来なかった。

 祝詞を唱えている時は、神様に捧げているものなので他のことは考えないようにしている。

 つまり無防備とも言える状態と同じであり、あやかしから襲われても気が付かなかったかもしれない。

誰か守護者の人と最初から来るべきだったと少し反省をした。

 自分に何かあれば、この世界を救うことは出来なくなるのだ。


まだ私にはその自覚というものが足りないようだった。


反省をしつつ、「こんにちは」と挨拶をしておく。


「こんにちは。言わずともお分かりかと思いますが、守護者を連れて行かないとダメですよ?」

「すみませんでした。今しがた、反省をしていたところです。」

「それなら良いのですが。今日は私がお守りいたします。」

「ありがとうございます。お世話になります。」


 モブ顔の私と超絶イケメンの大男と一緒に村を回ることにした。

その後も何箇所か浄化をし、時間になると神社に戻ってお祓いが必要な人を祓った。

 簡単な悪霊ばかりだったので、あまり手間暇がかかるということはなかった。


初仕事は無事に成すことができた。

…主人公の代わりに。



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