第14話 巫女としての仕事
「ありがたや、ありがたや。」
神様を崇めるかのようにお爺さんに拝められる。
私は単に除霊をしただけなのだが、ものすごく感謝された。
霊感がただ普通の人よりあるだけなのだが…。
それがまさかゲームの世界で霊力として変換されるとはなぁ。
人生、どうなるかわからないものだ。
「あまり慣れていない様子ですね、感謝されるという行為に。」
南雲さんがそう言って微笑んだ。
基本的に時間に余裕がある彼が普段は守護者として私を守護してくれている。
茶道教室の先生を普段はしているそうだが、今だけはお休みしているそうだ。
他のメンバーは外せない仕事があったり、学校があったりしてなかなか時間が合わないというのが現実だ。
守護者の前に1人の人間だもんね、というのが私の感想である。
不満などあるはずがない。
1人でも守ってくれる人がいるだけ、ありがたいと思っている。
「そうですね。…まさか、自分の霊感が役立つ日が来るとは思わなかったですから。」
時計を見ると村を巡回する時間に針が刺しており、神楽鈴を懐にしまって立ち上がる。
控えていた彼も同様に立ち上がった。
「霊感とはすなわち霊力と同じです。以前のもみじさんよりあるのが紅葉さんですから私は驚きましたよ。」
「それは同感です。私がもみじちゃんよりも霊力があるとは思っていませんでした。でも…霊感なんてない方がいいですよね。」
もう戻ることもないだろう元の世界を思い出しながら私はそう言った。
ずっと、ずっと、無視をしてきた私にしか聞こえない声。
その声に答えていたとしても、恐らく彼らの思いに応えることは出来なかっただろう。
彼らはもう時間が止まっている人間。
私たち生きている人間は時間が止まることはない。
世界というものはとても残酷で。
人間がどちらであろうと、進むことをやめない。
父方の曽祖母が死んだ時に私はそれを知った。
まだ、中学生の頃の話だった。
時が止まってしまった曽祖母と今も進んでいる私。
その違いがとても大きくて、そして残酷過ぎて。
私は涙を流したことを覚えている。
「そうですね。ないほうが、我々生きている人間は良いのかもしれません。」
「そうですよね。」
「でも、貴女のような人に霊力があって良かったと私は思います。貴女は、優しい方だから。」
エメラルドグリーンの瞳が細められる。
その瞳に映る私は、とても間抜けな顔をしていた。
私が…優しい?
ずっと私は彼らを無視し続けてきたというのに?
何もしてあげなかった私は本当に優しいのだろうか。
「貴女がどう思うと私は優しい人だと思いますよ。」
まるで私の心を読んだかのように、優しい声色で南雲さんはそう言った。
私は、その言葉を素直に受け取ることが出来なかった。
霊力が当たり前でない世界の出身の人間だからなのか。
本当の優しさというものが理解できずにいた。
「巫女様!大変だ!!女の子が湖に!!」
村を巡回していると、村人にそう言われた。
南雲さんと目を合わせて急いで言われた場所へと向かう。
そこはつい先日、浄化した湖だった。
(おかしい。なんで、また引き寄せられるようになってるの。)
祓祝詞でしっかりとお祓いもしたはずだ。
もしかすると、この湖の土地そのものに問題があるのかもしれない。
それよりも急いで女の子を救出しないと!
神楽鈴を私が出すと、それを静止する大きな手があった。
「ここは私が。土地そのものに向けて舞の準備をしてください。」
「分かりました。」
南雲さんが自身の守護者としての能力を発揮させた。
彼の家は水と火の神の力を借りることができる。
二種類の神の力を借りることが出来るのは彼の家だけだ。
「水神よ、我に力を貸したまえ。」
南雲さんはそう自身に命令をすると、湖の上を走って女の子を引き上げた。
女の子が気を失っていたものの、水はあまり口の中に含んでおらず幸いにも無事だった。
彼が湖の上を後にしたのを見届けてから私は神楽鈴を持って舞の形をとる。
怨鬼神も鎮めることが出来る最大の祝詞を唱えることにした。
名を、大祓祝詞。
「高天原たかまのはらに神留かむづまり坐ます 皇すめらが親むつ神かむ漏ろ岐ぎ 神かむ漏ろ美みの命みこと以もちて〜」
土地に向けて舞を舞う。
神の力を私も借りて、土地そのものを浄化することを試みる。
実際の巫女の舞とは違ってこの世界の舞は動きが激しい。
だが、女の子の二の舞を作るわけにはいかない。
私は巫女として責任を果たさなければならない。
先日よりより一層集中して舞を舞った。
「天つ神かみ 國くにつ神かみ 八百やほ萬󠄄よろづの神等共かみたちともに 聞きこし食󠄁めせと白まをす」
長い長い祝詞を唱えて舞を終えた。
シャン、と神楽鈴が鳴る。まるでお疲れ様とでも言っているかのようだった。
「見事な舞でした。お疲れ様でした。」
南雲さんからもそう言われた。
それはこちらのセリフである。
「私は務めを果たしたまでです。女の子が無事で良かったです。」
「…やっぱり、貴女は素敵な女性ですね。」
「はい?」
いつの日だかにあの鳥の神様から聞いた言葉が反芻される。
あの日も同じことを言っていたみたいだけど、どこが素敵な女性なの?
自分の魅力なんてさっぱり分からない私は首を傾げる他なかった。
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