第15話 誰かの夢

 夢を見た。夢だとわかる夢を見た。

とても不思議な夢で、自分が体験しているような夢だった。

 それは誰かの骸だった。

恐らくそれは神と呼ばれるものの骸。でも姿がよく見れない。

 私はその骸に伏せって泣いている。


「守れませんでした。」


夢の中の私はそう言う。


「守るべきものを、守れなかった。」


何かに懺悔するかのように言う。

その守れなかったものというのは、恐らくその骸の神のこと。


「私は無力です。」


その言葉は骸に届くことはない。

私にだけ届いている。


「人間というものは無力な生き物に過ぎないのです。」


勝手に口が動く。

私はそうは言ってもいないのに勝手に動く。

これは、一体誰の夢?


「貴女はどうですか。」


貴女とは私のことだろうか。

おかしな体験をしている。自問自答とはこのことを言うのだろうか。

なんだか、そんな言葉では片付けてはいけない言葉を投げかられている気がする。


「守りたいものは、ありますか?」


そう自分の口が動いたと思ったのと同時に目が覚めた。





「なんだ、今の夢…。」


 恐らく明晰夢、というやつだろう。

それにしてはリアル過ぎて少し吐き気がする。

 今日は朝食は要らないな…。

それだけは確定事項だった。


「おはようございます。」

「おはようございま…紅葉さん、顔色が酷いですよ!?大丈夫ですか。」

「ちょっと夢見が…大丈夫です。平気ですよ。でも朝食は遠慮させて頂きますね。」


 お手伝いさんに心配されてしまった。

鏡を見て平気な状態にまで仕上げたつもりだけど、甘かったみたい。

 あんな変な夢を見たのだ。

食欲はとてもじゃないけどなかった。

 京子さんにも心配されたが、食欲がないだけで巫女の仕事に支障はないことを伝えると渋い顔をされた。

もみじちゃんはと言うと、私が巫女という発言をするたびに殺気を飛ばしてくる。

ある意味凄い子だ。


(好きで巫女になったわけじゃないんだけどな…。)


そう叫ぶ元気もなく、心で呟くだけだった。





「もしかすると、初代・神代の巫女の夢かもしれませんよ。」


 西谷くんがそう言った。

明らかにおかしな夢の内容だったので、守護者である彼に聞いてもらったのだ。

 今日は彼が私の守護の担当をしてくれる日。

 せっかくの休みの日を私の護衛に費やしてもらうのは申し訳ないが、舞を踊っている際は無防備なのでどうしても守護者は必要になる。

私が村を巡回するようになってから瘴気は減った。

 しかし、あやかしの活動も活発になっているので油断は禁物なのだ。

村人にはほとんど霊力がないため、霊力が豊富である私が守らなくてはならなかった。


「初代、かぁ。私、神代の血を受け継いだ訳ではないんだけど…。」

「私たち守護者に主として認められた、ということは受け継いだのと同じことです。だから、そのような夢を見たとしてもおかしくはありません。」

「そういうものなの?」

「そういうものです。」


彼はやけにはっきりとそう言った。

 ここまでプレイしておけばこんなことを話す必要もなかったのだろうが、何せプレイ途中にこの世界に飛ばされてしまったものだから知識が偏っている。

知っていることと知らないこと。

 この夢の話は明らかに後者だった。


「もし泣きそうな時は俺に言ってくださいね。」

「…いきなりどうしたの。」

「貴女が背負っている使命はあまりにも過酷なものです。だから、辛くなったらいつでも俺に言ってください。」


 イケメン高校生、恐るべし。

あやかしよりも警戒すべきなのかもしれない。ある意味。

 こんな優しいセリフ、普通なら言えない。

少なくとも私はそんなセリフ思いつきもしない。


「ありがとう。もし、そうなったら遠慮なく言わせてもらうよ。」


 顔色が悪いと言われたが、なるべく笑顔を作ってそう言ってみた。

すると、彼は赤面した。

頬が桜色に変化している。明らかに照れているのがわかった。

 …今の何処に赤面するところがあったのか詳しい人が居るなら教えて欲しい。

そういえば、天女発言を最初にしたのもこの子だったな…。


関係ないけど彼の将来が少しだけ心配になった。





お昼頃。


「お疲れ様。身体は平気ですか?」

「お疲れ様です、京子さん。大丈夫です。お昼ご飯も食べれそうです。」

「そうですか、良かった。」

「ちゃんと怨鬼神を鎮めるまで身体を壊したりしませんから、大丈夫です。」


そう会話をしている時だった。


「西谷先輩!」


元がつくことになってしまった主人公、神代もみじが現れたのは。

嫌な予感しかしなかった。



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