第22話 告白②

 南雲さんに告白されてから1週間は経った。

あれから、彼には奇跡的とでもいうべきか会っていない。

守護者をまとめるリーダーということで何かと忙しいのだろう。

合わせる顔もなかったので私にとっては丁度良かった。

 その間、東野くんや阿南くんが平日には私の守護をしてくれた。

残念ともいうべきなのか、南雲さんのような恋愛には発展していない。

 なぜ、発展してしまったのかまるでシステムがわからない。

誰かに教えて欲しいものだけど、主人公はもういないし。

教えてくれる人はいなかった。


今日は休日なので西谷くんが守護をしてくれている。

彼とも会う機会が少ないので、倒れた時の礼を改めて言っておいた。


「いいえ。むしろ俺が謝るべき方です。頼ってくれとか言っておきながら、貴女に怖い思いをさせて無理もさせてしまいました。」

「あそこで無理しなきゃ、村が壊滅だったでしょ。仕方ないよ。」

「…本当に優しい人ですね。紅葉さんは。」

「そうかな。それ、南雲さんにも言われたなぁ。」


 村を巡回していたのだが、その言葉に彼は立ち止まった。

…どうしたんだろう。

何か私はとんでもない不味いことでも言ってしまったのだろうか。

 自分の言葉を思い返してみる。

普通のことしか話していないと思う。…多分。


「紅葉さんって南雲さんのこと、どう思っているんですか。」

「…いきなりどうしたの。別に特別視してないよ。頼れる守護者の1人としか思ってないけど…それが何か?」

「なら、俺にもチャンスはありますよね。」

「え?チャンスってな」


「俺、紅葉さんのことが好きです。」


私の言葉を遮って彼はハッキリとそう言った。


どこでフラグを立てたのよ私ー!!!

彼の言葉にそのことしか考えられらなくなる私。

南雲さんの時と同じように固まった。


 ていうか、乙女ゲームって普通はルートが確定したらもう他の人に告白されるはずがないと思うんだけど…。

ルートが確定していないということ?

このゲーム、主人公を巡っての取り合いもあったりするわけ!?

 どこのドラマよ!ここ乙女ゲームの世界でしょ!?

男が1人のモブ女を取り合うゲームなんて見たことないよ?

本当、ゲームシステムどうなってるわけ!?


 様々な考えが逡巡する。

私が余所者なのは彼も知っているとは思うけど、この叫びを聞かせるわけにはいかない。

流石に引かれると思う。

 いや、引かれても良いんだけど…女としてのプライドが許さないというかなんと言いますか。

頭を抱えたくなるのを必死に我慢する。


「か、神々から聞いてると思うけど南雲さんにも同じこと言われてるの。」


 とりあえず、事実を述べた。噛んだけど。

表情はとても硬くなっていると思う。

でも仕方のないことだ。

 まさか2人に告白されるとは思わなかったし。

しかも、一方は年下で未成年だ。

私は一人っ子だったので兄弟のことはよくわからないが、西谷くんのことは弟みたいに思っていた。

 だから、この反応は許してほしい。


「知ってます。でも、両思いでもないんですよね。それも知ってます。だったら俺にもチャンスはあると思って。」

「に、西谷くん…。」


 自分の年齢と西谷くんの年齢を考えてみる。

年の差、ちょっと大きい気がする。

とっくに成人してる私が手を出してはいけない年齢差じゃないだろうか。

 具体的な年齢は悲しくなるから思わないようにした。

でも私のそんな考えとは裏腹に彼はグイグイとくる。

本当、近くの木に詰め寄って来た。


「俺のこと、子供としか見てないですよね。」

「そりゃ、そうだよ。事実じゃない。」

「はい、悔しいですがそうです。俺は武幸さんと違ってまだ子供。でも、結婚はできる年齢ですよ。」

「そういうことじゃないと思うんだけど…ちょっと近い近い!落ち着こう!今は巡回に集中しなくちゃ。」

「…流されてくれないんですね。さすがです。そうですね、今は巡回に集中しましょう。」


あと10cmくらいでキスするんじゃないかという距離まで追い詰められたが、巡回中ということで彼は離れてくれた。

これが、巡回中じゃなかったらどうなっていたか…あんまり考えたくない。


「俺のことも、覚悟しといてくださいね。」


南雲さんと同じように笑顔で彼はそう言った。

先程の獣が獲物を狙っているかのような表情は顰めた。


…誰か、攻略本をください。言い値で買います。


彼のことも構わず私は天を見上げた。

空は私の心情とは違ってムカつくくらい晴れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る