第9話 3人目の守護者

短い白髪に金色の瞳。伊吹高校の制服を着ていた。身長も北山くんとそう変わりない。

確か、三年生だったような気がする。


「どちら様ですか?」


一応知らないふりをしてそう尋ねた。

初対面なのに知ってるのはおかしいだろう。

私はあくまでも知らないふりを貫いた。


「すみません。あまりにも美しくて見惚れてしまいました。俺は西谷渉と言います。」

「何に見惚れていたんですか?」

「貴女の舞にです。」

「…見惚れる?ちょっと意味がわかりませんが…自己紹介は省いても平気ですか?もみじちゃんから聞いていると思うのですが。」

「聞いてます。 …もみじがおかしいことも、気がついています。」 


あら、気がついていたんだ。

 未成年なのに冷静に物事を見ている彼を見てそう思った。

私は短く、そうですかと答える。

原因を言ったところで頭がおかしい奴だと思われるだろう。

それはこの世界が架空だとしても避けたいことだった。


「翔吾ともみじがすみませんでした。俺、謝りに来たんです。」 


 目を思わず見開いた。

ゲームをプレイしていた時から冷静沈着なキャラクターだとは思っていたけど、ここまで冷静に対応してくれるとは。

 南雲さんにがっかりしていたが、イケメンだけでなく彼は性格もしっかりしているらしい。


「君が謝る必要がないように思えますが。」

「いいえ。アイツは俺の弟分みたいなものです。兄弟みたいに育ってきました。だからこそ許すことは出来ません。」

「それは良い心掛けですね。でも、本人が謝らないんじゃ意味がないと思いませんか?」


彼を否定したい訳ではない。

 西谷くんの立場からしたらそれが最適解だと思う。それでも、本人が謝罪に来ない限り許されるということはないと思うのだ。

いつになったら本人は来るのやら。もしかすると永遠に来ないかもしれない。

 他人事のように私はそう思った。


「アイツ、もみじのことが好きなんです。だから、周りが見えなくなってるみたいで。」


 やっぱりそういう理由からだったかー。

なんとなく彼の言動からそうとは思っていた。

 はっきりした材料はないから思わないようには気をつけていたけど。

こうしてはっきり言われてしまっては確信に変わるしかない。


「君は冷静みたいだから理解していると思うけど、それは言い訳に過ぎないよ。」

「もちろん、わかっています。アイツは守護者としても今は相応しくありません。」


 なかなか厳しい言葉を言うんだな。

やはり兄貴分だからというのが大きいのだろう。

 弟分だとしても許せることと許せないことがある。

恐らくだけど、そんな思いを抱いているのだと思う。

南雲さんは歳が離れているから可愛く見えてしまうところがあるんだろう。

 まぁ、それでも甘いなと思ってしまうけど。


「だから俺は考えました。担任に進言したんです。翔吾ともみじをクラス替えするようにって。守護者の家はこの村では大きな力を持っています。担任と言えど逆らえばどうなるかわからない。だから多分、何かしら変化はあると思います。」

「そんなことが出来るんですか。」

「はい。だから、もう少しだけ耐えてもらえませんか?」

「別に何も耐えていませんよ。君が来るまで忘れてましたし。」

「え?」

「何か、勘違いしていたみたいですね。」


 私は微笑んだ。

どうやら彼は私が怒っていてずっと我慢をしていたと考えていたようだ。

正直、修行でそんな余裕なかったんだけれど。

 掃除という名の仕事も修行の後にはしていたし、考える暇もなかったというのが事実である。

 だから、完全に彼の勘違いだ。


「お優しいんですね。」

「初めてそんなこと言われましたよ。」

「貴女は優しい方だと思います。」 


 まだ18歳の彼にそんな真っ直ぐなセリフを言うとは。

育ての親が良かったのかな。感心感心。

 そんな風に彼を勝手に評価した。


「さてはお主。小僧が好いているのがわかっとらんな?」

「びっくりした。なんの話です、神様。」

「だから好かれておるのだ。」


 いきなり肩に乗ったかと思うと、小声でそう言われた。え?好かれているって・・・。

まさかまた私、好感度上げちゃったの!?

 本当に何もしてないんだけど!!

この世界の好感度設定、さっぱりわからない。

 長いため息をつきたくなった。




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