第10話 4人目の守護者

 これで出会った守護者は3人。

 残り2人もそのうち会うことになるだろう。

そのうち1人は隠しキャラだったはずだ。

 どんなきっかけかは分からないけど。

これ以上は好感度上がらなくていいよというのが今の心情である。

 イケメンに好感を持ってもらって悪い気はしないが、それ以上になんだかチョロ過ぎてどうなんだろうと思う方が大きい。



 もし、主人公に霊力があるならばこんな風に私に対して好感度が上がるということはなかったと思う。

本来の通りに彼女に対して上がるようになっていたんじゃないだろうか。

 それが本当ならば複雑な気分だ。

だって私自身の魅力とかそういうものではなく、霊力があるかないかだけでルートが変わっているということなのだから。

所詮はモブキャラでしかないことは否定もしないし悲観もしないけど、少なくとも魅力くらいはあっても良かったんじゃないかなと思う。

 自分の魅力って自身から言うことでもないし、分からないことだけど。

自分の出来ることも仕事も放棄するつもりはないが、ほんの少し虚しくはなった。




 翌日、また翌日と修行は続いていく。

 そして修行が終わり次第、軽く清掃してまた舞の練習。

印は全てすぐに結べるくらいに叩き込まれた。

 京子さんは私の飲み込みが早いとそう言っていたけど、教えるのが上手いというのもあると思う。

覚えたのは良いけど、お札があるというのにそれが使えないのが勿体無い。

 でも塵にする方がもっと駄目だよなと思い直し、お札の整理整頓をいつも終えていた。



 もみじちゃんはというと、西谷くんの進言が学校に効いたらしく北山くんとクラスが変わったらしい。

 彼女は猫を被っているようだがどうにも南雲さんから話を聞いた限り、化けの皮が剥がれてきているようだ。

あの子、言っていたもんね。みんなから愛されるの、とかなんとか。

 そんなの、この世界が現実なのだから無理だというのに。

 今日もルーティンを終えて屋敷に戻ろうとすると、もみじちゃんに声をかけられた。


「よくも私の計画を邪魔してくれたわね。」

「なんの計画?」 

「私の逆ハーレムエンドよ!!」


 この子、自分で言っていて恥ずかしくないんだろうか。

私は口が開いたままになっていた。

その反応が気に食わないのか、ますます怒り狂った声を出す。


「私は主人公なの!!みんなからちやほやされるの!!なのにあんたが来たから翔吾しか私を見てくれないの!!」


 1人見てくれているだけマシなのではないのか。

どう考えても彼女の思考は理解できない。

 わがままに聞こえて仕方がない。


「あのさ」

「うるさいうるさい黙れ!!」

「そうか。これが、お前の本性か。」


 冷たい声がした。聞いたことがある男性の声だった。

 黒く短い髪に黒曜石のような瞳。

身長は南雲さんと大体同じくらい。

カジュアルな服装に身を包んでいた。

 年齢は私より少し年下だったくらいで成人はしていたはずだ。


「呆れたものだ。いじめ、と言うならお前の方だろう。」

「東野さん…。」


 私は彼、東野義仲の気配を感じていたけど、彼女は全く気がついていなかったらしい。

この世の終わりのような顔をしていた。

本性曝け出しているの私の前でだけだったからね。 

 猫を被っていた彼女からすれば死刑宣告にも似たような言葉だっただろう。

そんな酷いことをはしないと思いたいけど。


「翔吾は耳を塞いでいるが、もう皆がお前の本性を知っている。八百万の神々が教えてくれた。」


 私の警告を無視したツケというものが来てしまったらしい。

年上の話は聞いとけとかご両親から、誰からか教わらなかったのかな。


「お前を、巫女と認めない。これから守護するのはそちらのお方だ。」


 東野くんは私に視線を移した。守護対象が私になるまで話し合いが進んでいたのか…。

 京子さんにそんな話を聞いた覚えが全くないんだけど、これから報告といったところだったのだろうか。


「間も無く、翔吾もお前から離れることだろう。覚悟しておくんだな。」


 私の考えは当たりだったらしい。

彼は私に一礼してから、屋敷の方へ向かった。

 こういうの、南雲さんの役割だと思っていたけど違うようだ。

基本的に攻略キャラクター達は全員冷静な性格だ。だからギャップというものが大きいのだけど…。


今はそれどころじゃないか。

 もみじちゃんが力が抜けてしまったみたいで地面に座り込んでしまったのだ。

守護対象ではない。


つまり、それはもう主人公ではないと言われたのと同義だ。


 励ます、というのもおかしいしこういう場合どうすれば正しいのか分からない。

でもこれだけは言うべきだろうと思って口にした。


「君が主人公でなくなったとしても生きていくしかないんだよ。」


 1人の時間が必要だろう。

私はそれ以上は何も言わず、境内を後にして屋敷に向かった。

 私が完全に主人公となるわけだけど、なんだかそれはとても悲しいことに思えて仕方なかった。



 だって私、どんなに言い繕っても所詮は余所者だもの。

 

 

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