第44話 最終話
ひらりひらりと紅葉が舞い散る。
私は皆が就寝してから1人、紅葉スポットにやってきていた。
明日には村に帰ることになっている。
つまりもう答えを決めなくてはならないということなのだ。
気持ちが沈んだままの私。
思考が鈍る。
とてもじゃないが今の状態で答えを出すなんてことは無理だ。
(はぁ…どうしよう。)
そんな風に考えに耽っていると、赤い鳥が視界に入り込んできた。
随分、久しぶりに見た気がする。
あのいつもの神様だ。神様はやけに真剣な表情で私に尋ねてきた。
「お主、帰りたいのか?」
「え?」
「お主が帰りたいと思うのなら帰らせてやっても良いのだぞ。」
…別格の神様だとは思っていたものの、そんなこともできるとは。
元の世界に帰ることができる?
…別にこの世界に未練はない。やるべきことはしたと思うし。
ならばいっそのこと、帰ってしまった方がいいのでは?
余所者は余所者らしく去った方がいいのでは?
赤い鳥の神様のおかげで選択肢が増える。
私は、この世界に、居ない方が──
「そんなこと、私たちが許すとでも思っているんですか。」
南雲さんの声が聞こえてきた。
やっぱり許してはくれないのか。
少し残念に思いながらも後ろを振り返った。
「鳳凰さま。巫女を思う気持ちは有難いですが、その行為は私たちにとっては余計です。やめて頂きたい。」
「分かっておる。こやつがいつまで経っても答えを出さぬ故、少し焚き付けただけの話よ。」
ええ!?あの鳳凰だったの、この神様。
かなりミニマムサイズな気がするんだけど…ってそんなことはどうでもいいか。
「紅葉さん。私たちは貴女の答えを尊重します。ですが、この世界から逃げることだけは決して許しません。」
鼓動が、速くなるのが分かった。
私なんかが居てもいいのだと彼は言ってくれている。
それはとても嬉しいことで、私の存在を認めてくれているような気がした。
南雲さんも優しい。みんな優しい。
誰を選べと言われても、私には到底無理な話だ。
結局のところ、答えなんて最初から決まっていたのかもしれない。
うじうじと考えていた自分が馬鹿みたいに思えた。
数ヶ月後。
「今日は俺と紅葉さんの日ですよー。」
「いいや、抜け駆けは良くありません。」
「俺の日じゃなかったか?」
またか、と言いたくなる光景。
もう5人と結婚して数ヶ月になるというのに皆、私のことを独占しようと頑張っている。
そんな頑張り必要ないのだが。
私は皆に対して平等に接しているつもりだし、誰か1人のものになろうとも考えていないのに。
強いて言うなら、私は5人のものだと言うのに。
いつも喧嘩ばかりだ。
でも、これでいい。
元の世界に帰るよりずっと、この生活の方が楽しいと思う。
まさか主人公ちゃんが望んでいた形に私がなるとは思ってもいなかったけど。
それでもこれでよかったと思えている自分がいるから。
私はこの世界を選んでよかったと思うのだ。
そう皆が言い争っているのを見ながらしみじみと思った。
『助けてくれたのに助けてあげなくて良かったね。』
ふとそんな声が聞こえた。
あの『助けて』と同じ女の子の声だった。
きっと本当の主人公が私に語りかけたのだろう。
困っている人を助けるのは当然だよ、主人公ちゃん。
元から霊感がある私が乙女ゲームに異世界転移してしまった 天羽ヒフミ @hihumi6123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます