第43話 揺れる心

南雲さんが立てたプランはとても素晴らしいものだった。

はっきり言って私好みだ。

紅葉を満喫させてくれるプランを立ててくれたのだ。

一応、観光すると言うことも5人から聞いていたのでデジカメも持ってきていた。

この温泉街の紅葉は色とりどりで、伊吹村に負けないくらいとても綺麗だ。

何回もシャッターボタンを押しては満足気に景色を眺めていた。

南雲さんに私が紅葉が好きだということを話をしたことはあっただろうか。

多分、なかったと思う。

何故、私好みのプランを立てることが出来たのか不思議だった。


「不思議だって顔をしていますね、紅葉さん。」


南雲さんが私の顔を覗き込んで言ってきた。

まるで私の心を読んだかのようだ。

神様でもないんだから心臓に悪いのでやめてほしい。


「あの赤い鳥の神様に聞いたのですよ。貴女が紅葉がとても好きだということを。」


…あの神様になら言った覚えがあるような。

多分、言ったことがあるのだろう。

そうでなければあの別格の神様の名前が出てくることはない。


「そうだったんですか。とても不思議でした。」

「伊吹村の紅葉もとても綺麗だと思いますが、ここもなかなかでしょう?」

「ええ。とても綺麗だと思います。」


そう話をしていると、


「南雲。抜け駆けはよくないぜ?」


阿南くんがそう言って割り込んできた。

少しドキッとしてしまう。

別に何かされた訳でもないけれど、彼の雰囲気が、なんだか色っぽい。


「抜け駆けなんてしていませんよ。普通にお話ししていただけです。」


少し不敵な笑みを浮かべて南雲さんはそう言った。

普通に話をしていたことは確かだが、何故そのような表情をする必要があるのか疑問だった。

私は間に挟まれた状態になっており、空気が居た堪れなくなって咄嗟にすり抜けてデジカメで紅葉を写した。

そちらの方に集中し、2人のことは放っておいた。

だって原因はわからないけど少なくとも、私のせいで諍いが起こりそうになっているんだもん。

そんなところに居るのはせっかくの観光地なのに嫌だった。


誰かを選べば、このようなことが何度も発生するんだろうか。


そのような考えが頭に浮かんでしまった。


「心は決まりましたか?」


東野くんがそう尋ねてきた。

まさにそのことを考えていたので鼓動が高鳴った。

あまり考えたくないことをこの人は聞いてくる。

ここで聞かなくても良いことなのに。

でも、いつかは答えを出さなきゃならないこと。

私の心は決まってなんかいなかった。


どっちを選んでも最善とはどうしても思えないのだ。


ならばどうするべきか。

伊吹村を去るしかないだろうか。

そうしたら生活は?

出来ないはずだ。だってこの世界の人間じゃないのだから。

それはきっと死ぬことよりも辛いことだ。


「…決まってないです。ごめんなさい。」

「すみません。今、聞くことじゃなかったですよね。」

「いいえ。いつかは決めなきゃならないことですから。」


もし、2つ以外の選択をしたら守護者の皆がどうするかなんて想像もしたくない。

やっぱり2つのうちの選択肢のうち、どちらかにするしかないのか。


せっかくの紅葉だというのに私の心は沈んでしまった。

もし、私が主人公だったなら。どんなに気持ちが楽か。


ひらりひらりと紅葉が舞い降りた。


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