第31話 諦めの悪い男

あまりのことに口を開くことが出来ない私に、北山くんは追い討ちをかけるように言う。


「俺の目は間違っていました。あんな霊力もない奴のことなんか好きじゃありません!本当に好きだったのは貴女だったんです!」


いや、だから何を言ってるのこの子。

散々私のことを『お前』呼ばわりして、最後まで謝罪も反省もしないでいて。

それでいて私のことが今度は好きだから許してくださいって?


ふざけるのも大概にしろよ。


私はブチギレかけていた。

だが、彼の掴む手が痛いくらい力強いので今は何も出来ない。

今は。

相変わらず何も反応を見せない私にしびれを切らしたのか、


「何か言ってください!」


そう慌てるように言った。

私のもう片方の手も掴みかかろうとした次の瞬間。


「先ほどから聞いていればふざけたことを言っていますね、翔吾。」


北山くんより更に身長が高い、南雲さんが彼の手を掴み上げていた。

私を掴んでいた手も少し乱暴に突き放される。

ようやく自由の身を手に入れた。

反撃してやろうかと思ったが、反応を示したらこちらの負けのような気がしてやめることにした。

助けてくれた南雲さんには申し訳ないけど、彼らを無視して私はその場を去った。

後で南雲さんに謝らないと。


私は本来の目的を果たすべく、見回りに向かった。


見回りを続けてみた結果、異常は見当たらなかった。

強いて言うなら村人から感謝の言葉を言われたくらいだ。

荒ぶっている神も居ないようで私は安心した。


(本当に終わったんだな…)


濃い数ヶ月を過ごしたものだなとしみじみ感じていた。

今の所は京子さんに追い出されるような気配はない。

でも、神代の巫女の役割はもう終わったはずだ。

つまり私は用済みな訳で。

もうただの余所者でしかないはずだ。


なんで北山くんがいきなりあんなことを言い始めたのかさっぱりわからないけど。


私は追い出される覚悟を決めることにした。



夕方。


「あの!紅葉さん。」


神社に居ると南雲さんの不安げな声が後ろから聞こえた。

息を切らしている。

そんなに慌ててどうしたんだろう。何かあったのかな。


「なんでしょう。何かありましたか?」

「いいえ。…先ほど、私のことを無視したように見えたので。探したんです。」

「あぁ!すみません。後ほど謝ろうと思っていたのに。違います。北山くんに反応を見せたら良くないと思って彼を無視していたんです。」

「なんだ…そうだったんですね。良かった。貴女に嫌われたのかと思いました。」

「南雲さんたちのこと、困ってはいるものの嫌ったりはしませんよ。」


慌てている南雲さんのことがおかしくて思わず笑ってしまった。

気がつくとぼーっと彼が私のことを見つめている。

さっきからどうも変だ。彼が私に対して好意を抱いているのは知っているけど。

そう考えていると、いきなり腕を引っ張られ──。



抱きしめられながらキスをされた。



私のファーストキス、奪われた。

そんなことを何処か他人事のように思っている自分がいた。




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