第32話 とある夢

南雲さんはなかなか私のことを放してはくれなかった。

抱きしめる腕がとても力強く、押し付けてくる唇の力も凄い。

非力な私はされるがままである。


不思議なことにキスされていることは嫌ではなかった。


だからと言って好意があるいわけではないと思うんだけど。

拒みたくても力強くて無理なわけだし。

ただそれでも嫌だなと思うことが1つあった。


神々に見られているということだ。

視線を感じる。好奇心旺盛なのだろうか。気配をすごく感じるのだ。

それだけが嫌だった。2人きりならまだこんな気持ちになることはなかったと思うんだけど。

南雲さんも場所を選べなかったのかな。我慢ができなかったとか。

よく、わからないけど。

しばらくされるがままにされていると、力が緩められてやがて離れた。


「驚きました。嫌がるかと思ったのですが。」

「私が非力なのをご存知でしょう。」

「でも拒めたはずです。」

「…不思議なことに嫌ではなかったんです。だからかな。よく、わかりません。」


そう言うと、南雲さんは緩めたはずの腕の力をもう一度強くして私を抱きしめた。


「…それは期待しても良いのでしょうか。」

「わかりません。生憎、この体質のせいで恋愛経験はないんです。」

「なら、勝手に期待しています。」


そう言うと、私の頬に手を添えて真っ直ぐ見つめてきた。

黒い瞳はどうしてか情熱的に見えた。

私のことを捕らえて離さないと言っているかのようで。

どうして私なんかのことをこんなにも思ってくれているのか、不思議だった。


「まだ体調が万全ではないでしょう。これくらいで我慢しておきます。」


そう言って南雲さんは微笑んだ。

私は困惑しかできなかった。




「まだ、無理はしてはいけませんよ。」


屋敷に帰ると京子さんにそう力強く言われた。

南雲さんにされたことを神々から聞いたのかな…。

だとしたらとても恥ずかしいんだけど…神様ってお喋りだなぁ。


「はい、ありがとうございます。」


私は苦笑いでそう言った。

ここに居ても良いのかどうか、それを尋ねるのは怖くて出来なかった。

私はその日も早めに就寝することにした。

全快はしたものの、まだ体力まで完全に回復したわけではないことを見回って分かったらだ。

布団を敷いて入ると、すぐに眠気が来た。

私はその眠気に逆らうことなく受け入れて眠りについた。



夢を見た。



怨鬼神から村を守ったあやかしが居た。

それが伊吹童子。

伊吹童子は神代の巫女に密かに想いを寄せていた。

だがそれが叶うことなく伊吹童子はあやかしから神にへと変わり、祀られた。

代々の巫女を見てきたが、彼女と同等に思える人物などいなかった。


──そう、今までは。


「其方は違うな。」


声が、する。

とても艶やかな声がする。


「其方に決めた。」


ゾクッと背筋が震えた。

何を決めたというのか。嫌な予感がする。


「其方を儂の嫁にする。」


何を言っているのかこの神様はーーー!!!

私は逃げるように目を覚ました。


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