第34話 頑張る男達

「伊吹童子なんかに貴女を渡したりしませんから!」


西谷くんがそう元気よく私に向けて宣言した。

彼も伊吹祭りの時に私を荒御魂から守ってくれた守護者の1人である。

頼りになる守護者ではあるのだが、少々熱血なところがある。

そういうのは北山くんの性格だと思っていたんだけど。


「元気いいね…。」


私はまだ年寄りと言う年齢ではないものの、西谷くんよりはずっと年上だ。

そう考えると彼のことが少し若く見える。


「紅葉さんは元気なさそうですね。…色々あったから無理もないと思いますけど。」


私が元気のない原因の一つとなっていることに気がついて欲しいと私は密かに願った。

西谷くんの私の見る視線が変わっていることに気がついてしまったのだ。

熱く捉えて離さない視線。

恋をしてる視線そのものだ。

恋愛経験がない私でもわかるくらいの熱い視線を私に向けていた。

今はそんな状況ではないことを理解して欲しいのだが…。


南雲さんがマシに見えてきた私はもう末期なのかもしれない。


「うん。そうだね…。」


言葉には出さず、私はどうにか飲み込んでそう言った。



東野くんの時にもこう言われた。


「神様なんかに貴女を渡したりなんかしませんよ。」


デジャブ?とも思ったが、違う。

確かに私は今、こう言われている。状況が違うからデジャブではない。


阿南くんからはこう言われた。


「誰にも渡させねーよ。」


ちょっと言葉使いを間違えた。彼の場合、ちょっと所かまるで違うセリフを私に言ってのけた。

そして私に詰め寄ってきていた。


「ちょ、阿南くん…?」

「神にも他の男にも渡さねぇ。散々我慢してきたがもう良いんだろ?」

「何が!?」

「大人なんだから少しは察しろよ。」


大人でも恋愛経験はないので察することは出来ません!

それらしきことをしようとしていることだけはわかるけど!

気がつけば顎をグイっと片手で掴まれていた。


「ちょ…」

「南雲の野郎に許したんだから、俺にもさせろよ。」


この感じ覚えがある。

キスされる…!!!ちょっと無理やりはどうなんだろうか!?


その時だった。


「無理やり女性を襲おうとするのはいかがなものかと思いますが。」


聞き覚えのある丁寧な物言いをする人──南雲さんの声がしたのは。

阿南くんの腕を軽々を掴み上げ、私から離した。

私はキスをされずに済んでホッと胸を撫で下ろすが、2人はバチバチに睨みあっていた。

ホッとしている場合ではない。宥めないと!


「あの、2人とも、落ち着いてください。霊力が無駄に溢れていますよ!」


そう慌てて言ったが、


「無駄ではありません。わざとです。」

「そうだ。巫女ならそれくらい見抜け。」


全く収まりそうにない。このままじゃ誰かが傷つく。それだけは嫌だ。

私は恥も何もかも捨ててこう言った。


「ここで戦いなんて始めたら嫌いになりますから!」


ピタリ。と静止画のように2人は動きを止めた。

私は恥ずかしさのあまりに穴に入りたい気分だった。

こんなセリフを言う羽目になるなんて…男性のことが嫌になりそうだ。


「私、帰ります!」


逃げるように、というか逃げる為に私は屋敷まで走って向かった。

2人は嫌われたくないからなのか、追いかけて来なかった。

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