【第十五】山城守御悩相談の事
一方で、祇園林からの書状に目を通した山城守は、ただただ思い戸惑っておりました。
——サギとカラスの縁談など聞いたこともない… そもそもカワイイ姫を、いくら烏鳥の名門と云えど、野卑なカラスどもの家へ嫁がせるなど考えたくもない。とは申せ、いま
東市佐からの書状には、結びに「是非、雪透姫殿も伴つて一度祇園林にお越しいただきたく
そこへ折よく、山城守の後見役である、
加えてこの古サギ、古今東西の文事に通じ、その博覧強記たるや『クイズ世界ふしぎ発見』におけるところの黒柳徹子、『クイズダービー』におけるはらたいら、『象印クイズ ヒントでピント』の浅井慎平、『世界まるごとHOWマッチ』の石坂浩二、『わくわく動物ランド』の小林亜星らに匹敵する博識でございまシタ。
また、その豊富な人生経験から、さまざまな渉禽のアドバイザーにもなっておりまして、云わば『テレフォン人生相談』においての加藤諦三、『午後は○○おもいッきりテレビ』でのみのもんた、『ライオンのいただきます』の中山あい子、『夕やけロンちゃん』の吉村光夫などに比肩する相談相手とも申せまシタ。
然れば山城守、難波津殿に事情を打ち明け、祇園林との縁談について相談いたしまス。
難波津殿、答えて曰く——
「
たしかに、ニンゲンの色欲と申しますのは動物界でも屈指のものがございまス。
命を削って死ぬまで交尾をくりかえすアンテキヌスのオスには及びもつきませんが、これだけ飢餓やら戦争やら自然災害やらに責め立てられながら、365日24時間いつでも発情し、総人口80億を超えて増殖をつづける繁殖力はダテではございませン。しかも、一度の出産でひとりの児を生すのがスタンダードな種としては、これはまさに驚異的——
十一代将軍徳川家斉などは67年の生涯で正室側室合わせて16人に53人の子を産ませたとか… 17世紀後半からモロッコを支配したスルタンに到っては500人の妻妾に868人の子を産ませたと申しまス。
それにも増して、18世紀にロシアに実在した女性は、一度の出産で複数の子を産む特異体質で、その生涯に69人の子を出産したとか… されば彼女は、69個のスイカを鼻の穴からだすのと同等の激痛に堪えたのでございます。それに較べれば、たかだか868回赤子を孕ませることなど屁でもございません。毎日朝晩オ●ニーする男子中高生なら、土日は朝昼晩として、一年そこそこでそれだけの妊娠に必要な回数の射精を、余裕
さればまたヒトのオスの外性器は霊長類で最大級——現生哺乳類最大のシロナガスクジラが持つ平均2.4mのオチ●チンや、最大1.5mの長さを誇るゾウのオ●ンチン、或いは、かのチャールズ・ダーウィンまでも魅了した、フジツボの仲間が持つ体長の八倍もあるオチン●ンと較べるといささか迫力に欠けますが——それでもニンゲンのオチ●チンは、どんなに「短小ホーケイ」と嘲られるようなモノでも、体長2mのゴリラのオチンチ●を凌駕する巨根なのでございまス。ただタマタマ♡に関してはチンパンジーにカンパイ——!
さすれば、難波津殿も指摘されておりますように、ニンゲンの抑え切れぬ色欲の暴走はホモ・サピエンスの範疇に留まりません。
20世紀半ばに、獣医学者のアルフレッド・キンゼーがアメリカ人男女2万人を対象に行った調査では「動物との性体験について尋ね」「過去に何回やったか」とのキワドイ質問に5%以上の被験者が回答、そのうち8%の男性と3.5%の女性が「慢性的に動物との性交渉を持つこと」を認めたと申します。なかでも地方出身者に絞った数値は五割にのぼるとか… オ●ホールが劇的進化を遂げた現代にあって、このデータがどこまで参考にできるか微妙なところではございますが、そんな21世紀になっても、エミール・クストリッツァの愉快な映画で、犯罪組織のボスとニワトリとの文字通りの鶏姦が象徴的に描かれ、その部下は「イノシシ以外なら誰でもいい」とあっけらかんと語っている。
性風俗に宗教が不条理な圧力を掛けていた中世ヨーロッパにおいては、獣姦を犯した者は処刑され、犯された動物ともども火に焼かれるのが常でございました。されど、そんな中であっても獣姦を犯す者は後を絶たなかった由——
もちろんそれは古代に遡ってもおなじこと——青銅器時代のスウェーデンの岩絵には大型の四足獣のお尻に巨大なオ●ンチンを挿入する男性の姿が描かれておりますし、古代ペルーのチムーやモチカの人びとの遺した土器には様ざまな性行為が描かれ、そのうち6%には獣姦の様子が描かれていたとか——
難波津殿曰く——
「ニンゲンに関してはメスについても様々逸話がござる。これは以前にハシグロヒタキなる渡り鳥から聞いた話でござるが、西方のさる島の王妃は牡牛に欲情してまぐわい、半人半牛の怪物を産んだとか… また、さる国にはハクチョウに犯され、卵を産んだ王妃の伝説が遺されてござる。おおそうじゃ、これは近頃聞いた噂にござるが、
ここで古サギが聞いたと云う、牡牛に欲情した王妃とは恐らくクレタ島の王妃パシファエであり、彼女が産んだ半人半牛の怪物とは迷宮の怪物ミノタウロスのことでございましょう。卵を産んだのはスパルタの王妃レダで、彼女はハクチョウに
ちなみに、難波津殿に西方のエピソードを伝えたハシグロヒタキは、アラスカからケニアやウガンダなどアフリカ東部の国々まで、片道総距離ナント14,600㎞の距離を
されど「渡り」の移動距離だけで申せばその遥かうえをいくものがございまして、キョクアジサシはその名の示す通り北極と南極のあいだを往来する渡り鳥にございまス。その距離は片道で15,000~20,000km、長いもので往復50,000kmに及び、記録のあるなかで最長のものはナント80,000kmに達するとか——
またオオソリハシシギはアラスカからオセアニア地域に渡るトリで、移動距離としては長くとも12,000kmと、キョクアジサシやハシグロヒタキには及びませんが、その距離をわずか8日間無着陸無食餌で飛びつづけるのだとか… さらに移動距離は6,800kmと短くなりますが、渡りをする際の速度で右に出る者のないのはヨーロッパジシギ——最高時速97kmでスウェーデンからサハラ砂漠以南までの距離を休みなく一気に飛んで行ってしまうそうにございます。インドガンやアネハヅルなどは酸素が平地の十分の一ほどしかない標高7,000~8,000mのヒマラヤ山脈を越えて渡りを行います。
以上、「渡り鳥・ザ・グレート!の巻」おわり——
次回、「コバシオタテガモのオチ●チンは42.5cm!の巻」をお楽しみに!
【第十六】につづく——
◆参考文献
中田祝夫『
中田祝夫『日本霊異記(中)全訳注』講談社学術文庫 1979年
ミダス・デッケルス『愛しのペット 獣姦の博物誌』(伴田良輔 監修、堀千恵子 訳)工作舎 2000年
ヴィンチェンツォ・ヴェヌート『生きものたちの「かわいくない」世界 動物行動学で読み解く、進化と性淘汰』(安野亜矢子 訳、株式会社リベル 翻訳協力)ハーパーコリンズ・ジャパン 2021年
エミリー・ウィリンガム『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』(的場知之 訳)作品社 2022年
樋口広芳『鳥ってすごい!』ヤマケイ新書 2016年
陳湘静・林大利『鳥類学が教えてくれる「鳥」の秘密事典』(今泉忠明 監修、牧高光里 訳)SBクリエイティブ株式会社 2023年
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