【第二十】※筆者註

※関心のない方は読み飛ばして【第二十一】へ——


鵙枯木殿女御もずのこきでんのにょうご

 モズに関しては、やはり百舌鳥耳原北陵もずのみみはらのきたのみささぎをはじめとする「百舌鳥古墳群」に掛けるのが好かろうと思ったが、筆者自身の無知無学も手伝って、それを女性名につなげられなかった。結局、サトウハチロー作詞の♪「もずが枯木かれきで」から「枯木」を取り、源氏物語の登場人物「弘徽殿こきでんの女御にょうご」のダジャレで「枯木殿こきでんの女御にょうご」とした。


●鋼のような叡智

 もしくは「鋼のごとき退屈」。いずれにしても「輝き続ける自由」。


山鳩小侍従やまばとのこじじゅう/雀図書助すずめのずしょすけ保志朝臣ほしのあそん藤太とうた

 『鴉鷺物語』には名のあるハトが、法勝寺の「僧都そうづ俊寛しゅんかん」、住吉八幡の「鳩太郎宗高むねたか」など計四羽登場する。これは、カラスやサギ以外では異例の多さである。ちなみに、いずれも「塔鳩(ドバト)」である。

 当初は原則通り、これらのいずれかを『鳥歌合』の参席者として利用することを考えたが、石清水八幡宮のある「鳩ヶ峰」に掛けて、石清水別当の娘である「待宵まつよいの小侍従」に因むことを思いつき、「山鳩小侍従」とした。「山鳩(キジバト)」としたのは、これ以上ドバトを増やすのも芸がないと考えたため… 「鳩ヶ峰」という「山」であることにも因んでいる。

 スズメについては、底本『鴉鷺物語』に登場する「雀の藤太とうた」を利用。この「藤太」の名は、「雀の発心ほっしん」や「雀の草子」と呼ばれる御伽草子おとぎぞうしにあるスズメ「小藤太ことうた」に因んでいると思われる。

 本作では、底本でも活かされた「藤太」の筆の腕前をそのまま踏襲し、そこから「中務なかつかさしょう図書寮ずしょりょう」の官職を与えた。姓は、「雀の」の音からの連想——


●雑な性分が特性のハト

 ハトの巣作りのいい加減さからイメージした。ハトの作る巣は、木の枝を雑に組んで作られることがほとんどで、なかの卵が透けて見えることもある。でなければ、使用済みの古巣を再利用したりする。いずれにしろ、かれらにとって巣作りは、得意なことでも愉しいことでもないようである。


瑠璃中納言るりのちゅうなごん宮込朝臣みやごめのあそん定家さだいえ

 はじめ「るり」は、和泉式部の「瑠璃の地と人もみつべしわがとこは…」という歌に因んで、雌流歌禽めんりゅうかきん瑠璃玉式部るりのたましきぶ」として考えていたが、底本にある「るり」の歌が、どう詠んでもオスの「るり」の歌であることから、「瑠璃の水にしきのはやし色々に…」と詠んだ藤原定家に掛けることにした。姓の「宮込みやごめ」はオオルリ(※「るり」のこと)の俗称「京女きょうおんな」(※みやこ)に因む。


●『鳥歌合』MVB

 Most Valuable Bird(=最優秀のトリ)の略。


●三大鳴禽

 「日本三鳴鳥」のこと。すなわちウグイス、オオルリ、コマドリ。本編ではアイドルグループ「たのきんトリオ」になずらえた。オオルリは♪「ジーンズ メモリー」から連想して、すんなり「マッチ」に決めた。コマドリは羽色からすれば、なんとなく「トシちゃん」ぽいかと考えたが、ウグイスを「ヨッちゃん」とするのはいささか抵抗があり、消去法でコマドリを「ヨッちゃん」とした。


●「ひは(ヒワ)」について

 じつは、底本『鳥歌合』にサギは登場しない。カラスに関しては、底本でも「からす」と「からす」の二席が設けられており、「ひは」が対戦するのは「からす」のほう… そのため本作では、「からす」と対戦するはずの「ひは」にご辞退いただき、そこに「さぎ」を割り込ませた。本作上では、カラスがマヒワの代わりに歌席を得た、ということになっているが、じっさい「ひは」を引きずり降ろして割り込んだのは「鷺」のほうというわけである(というより、筆者の所業だが——)。

 ちなみに、本段で名の出たマヒワについて、オスの頭が黒いところから官職を「蔵人頭くろうどのとう」とし、「チュイン」という啼き声から「中院なかのいん家」を連想して「ひわの蔵人くろうどのとう中院通弱なかのいんみちなよ」と名づけた。


●父親の死に目よりオシャレを優先——

 主に西日本各地に伝わる「キツツキとスズメ」の昔ばなしから。

 多少の異同はあるようだが、おおまかにいうと——かつてキツツキとスズメは姉妹で実家から離れて同居していた。ある時、新しい着物を染めつけようとしているところに親の危篤の報せが届く。スズメはまだ染めていない白無垢の着物を身にまとって、大慌てで泥だらけになりながら帰ったが、キツツキは最後まで着物を染めつけてから帰り、親の死に目に会えなかった。キツツキとスズメの羽色が現在のようになったのは、この時からである——というもの。

 また、「てらつゝき」を「赤啄木鳥あかげら」に設定したのは、この昔ばなしから推測してのこと。コゲラやノグチゲラなら、スズメといっしょに飛び出していたことになる。また「造寺司ぞうじし」としたのは、木と関わるトリであり、「つゝき」でもあったため… 加えて、木に関わる官職である「木工寮」を避けたのは、のちに登場するフクロウが「木工允もくのじょう」であるからである。姓名は推して知るべし——



◆参考文献

 木下勝俊『鳥歌合』風々齋文庫(Kindle版) 2018年

 叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄『山渓ハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥』山と渓谷社 2016年

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